天恵物語
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第一章 03-1

夜もすがら。


窓枠に手を掛け、よじ登る。リタは宛がわれた二階の部屋から脱出を試みた。


「あれ、意外と高い……?」


たかが二階、されど二階。自分の身長の三倍はあるのではないかという高さだ。天使であった頃は何てことない高さだったが、羽がなくなった今も飛び降りることは可能だろうか。
……いや、きっと大丈夫だ。天使であった頃はこんな高さ難なく着地していた。それでも若干不安の不安を残しながら、出来ると信じて二階からの飛び降りを決行することにした。


(ごめん、リッカ……)


安静にと言われていたが、天使界のあの状況を見て、これ以上大人しくしていられない。恩人に黙って抜け出しを図ることになったが、それも夜の間だけだ。心配をかけたくないので早朝までには帰ってくるつもりだし、リッカのあの様子では当分村の外へなんて行かせてもらえそうにない。


(黙って勝手に出ていくなんて……不良だ。いや、一応戻ってくるつもりだけど!)


天罰を受けるかもしれない。
天罰と言えば、つい最近ニードにちょっとした天罰を食らわせたことを思い出した。


「すみません、お師匠っ! リタは不良になります……!!」


玄関から堂々と出かけるわけにはいかないので、窓枠を蹴るように外へ飛びだした。


「お、……っと?!」


ドスン、という音と共にリタは地面に着地……というか転げ落ちた。ちょうど落ちた場所に茂みがあったのが幸いして、これといってケガはなさそうだが……。


(し、失敗した……)


羽があるのとないのとでは、やはり落下の仕方が違うらしい。着地は見事に失敗した。羽があった頃の感覚のままでは、そのうち大ケガをするかもしれない。今度練習しておこう、とリタは固く決意する。それと、羽がない今、バランス感覚も鍛え直した方が良いかもしれない。……何だか本格的に曲芸じみてきたのは気のせいだろうか。
そんなことを考えている時だった。誰かの足音が聞こえ、リタは反射的に振り返る。
そこにはなぜか、昼間にも会った、夜道を行く人物が――。


「……お前、何やってんだ?」


「……ニード、さん」


村長の息子、ニードだ。


「ニードさんこそ何を?」


「いや、ちょっとな……そうだ、丁度良い。お前ちょっとこっち来いよ」


ニードは建物の影に来るようにと手招きをした。
とりあえず、脱走がバレるわけにもいかないので大人しく建物の影に隠れた。


「なんですか? ……言っておきますけど私、ちゃんと旅芸人です」


「違ぇよ、その話じゃねぇ 」


「あれ? じゃあ服のセンス? これは着用の義務があるから着ているだけで、わたしは別に……」


「だから違えぇぇーーっ!! お前、何気に昼間のこと根に持ってるだろ!! そうじゃなくて……」


「こ、声大きいよニードさん!」


今は夜。リッカだけでなく皆が寝ている。
はっとして口を押さえたニードだったが、気を取り直してリタに話を持ち掛けた。



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