第一章 03-2
「峠の土砂崩れを何とかしたい?」
二階から落ちたせいか、リタは体の至るところにくっついていた葉っぱを払いながら、ニードに向き合った。
ニード曰く、その東の道にある土砂崩れを退かして親父に一泡吹かせたいのだとか。
「リタ、認められたいんだからな。一泡吹かせたい訳じゃねぇから」
「うーん、どっちも似たようなものなんじゃないかな?」
「……まぁな。だけど今、外は魔物がうようよしている。そこでだリタ、旅芸人ってのは結構腕が立つんだろ。だから俺と一緒に来てくんねーかな?」
ニードの提案に、しばらく考え込んだ。
リッカの家からの脱走計画は、ニードに見つかった時点で、ほぼ失敗に終わっている。
だったら別に頼まれても良いかな、と思うわけで。
「私でよければ協力したいところなんですが……」
「そうか! なら早速、」
「でもちょっと待って、今は魔物の活動が活発になるころですよね」
早朝は、エサを求めて動き回る時間帯だ。それに魔物は空腹な為、気性が荒くなっている可能性もある。リタ一人なら構わないが、ニードを連れてとなると少し不安が残る。ニードがどのくらい腕が立つかなんて分からないが、村の外に出るなら日が昇ってからの方が良い。
「わざわざこんな時に行かなくてもいいんじゃ……。まぁエサになりたいっていうなら別なんだけど」
「俺にそんな自殺願望は無い」
「じゃあ、日が昇った日中に行くことにしましょう。……よっこらしょ」
「何やってんだ?」
ニードが怪訝な顔をする。それにリタは笑顔でもって答えた。
「私、窓から出てきたから……ここをよじ登らないと帰れないんです!」
二階の開いた窓を示すと、ニードの顔がア然とした表情に変化した。
しかもリタは見たところピンピンしているし、無傷だ。かすり傷さえ見当たらない。
「お前……本当に人間か?」
いいえ、守護天使です……とは、さすがに言えなかったけれど。
(ニードさん、意外に鋭い……)03(終)
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