第三章 11
「ベクセリアの民は大いなる試練を乗り越えました。しかしその結果、我々はかけがえのないもの……エリザさんを失いました。この犠牲はあまりにも重く、我々の心にのしかかってきます」
曇天の空の下、エリザの葬儀が行われた。
「ですが彼女は、私達に人がいかに強くあれるかを教えてくれました。……残された私達は彼女の強さを学び、悲しみを乗り越えていかなければなりません。さぁ、彼女が憂いなく天に召されることが出来るよう、共に祈りましょう」
淀みなく語る神父に、泣き伏すエリザの母。
辺りは、しんみりとした重い空気に包まれていた。
「エリザ……エリザぁぁっ! うううっ……」
「しっかりなさい。しかし……ルーフィンのヤツめ、この場に現れないで何をやっているのだ?」
町中の人々が葬儀に集まったというのに、そこにルーフィンの姿は無い。
ルーフィンは研究室に閉じこもったまま、出て来ようとはしなかった。
「せっかく町を救ったのに、こんな雰囲気じゃ星のオーラなんて出てこないよネ……。アタシ達の苦労は何だったワケ?」
「というか、お前今までどこにいた?」
祠に行った辺りから姿を見せなくなったサンディに、アルティナは葬儀をしている人達に聞こえないくらいの声でつっこんだ。
二人は今、葬儀の集まりから少し離れたところにいる。
「だってサ〜あの化け物、チョーキモかったじゃん。ピンクに黄緑とか、あの組み合わせ有り得なくね?」
傍にはいたらしい。
それ以上の追及をやめ、アルティナは連れである元天使を眺めた。
「ぐぅぅ……こうなったら、せめてお礼だけでも貰わないと! よーし、町長のおっさんとこに行ってお礼をせしめてくるのよ!」
「アイツは、せしめるどころじゃなさそうだけどな」
「は?」
アルティナが言うところの“アイツ”は、エリザの追悼をしていた。
背中から哀愁の念が感じられるくらい、しょんぼりとしている。
「ナニ、あのコどうしちゃったワケ?」
「エリザとか言ったか。そいつが病死してたのを見つけてから、ずっとあんなだ」
エリザは、医師によって改めて流行り病での病死だということが判明した。
彼女は流行り病にかかっていたにも関わらず、元気に振る舞っていたということだ。
ルーフィンに心配をかけたくない、研究の邪魔をしたくないと思っていたがために。
「つーかさ、エリザってあの学者の妻なんでしょ? フツー、自分の妻が病気になったら分かるもんじゃない?」
「分からなかったんだろ、あの研究バカは。周りのことが全く見えてないからな」
だから、身内であるエリザの病気にも気付けなかった。
そのことを、ルーフィンは分かっているのだろうか。
分かってないだろうな、とアルティナはぼんやりと思った。
ルーフィンが心を開いたのはただ一人、エリザだけだった。そのエリザが亡くなってしまったということは、彼は彼の狭い世界に一人きり。
それは、まるで昔の自分を見ているようで。
それに気付いてからというものの……無性に、イライラしている。
「ちょ、雨降ってきた?!」
ポツリポツリ、小さな冷たい感覚を顔に感じると共に、雨が降り始めた。
「えーっ、マジ最悪!! メイク落ちちゃうじゃん!!」
サンディが文句を言った直後に雨脚はひどくなり、土砂降りと言えるくらいになってしまった。
ちょうど追悼を終えた人々は、濡れるのを避けて早々と退散し、残ったのはリタとアルティナだけ。サンディも、メイクが落ちると騒ぎながらどこかへ行ってしまった。
アルティナは、エリザの墓の前にいるリタの背後に立った。リタは何も言わず、ただひたすらに墓に刻まれた文字を見ていた。
辺りは雨の音以外に、何の音も聞こえてはこなかった。
(目の前の少女が、いつもより小さく見えた――)11(終)
―――――
視点をアルティナ側っぽくしてみた。
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