第三章 10-2
「……では、わたくしはこの辺りでお別れですわ」
「え?」
エリザの家へ向かおうとしたリタに、カレンが別れを告げた。
「病魔も封印したことですし……わたくし、向かわなければならない場所がありますの」
「そう、ですか……」
声が自然としぼむ。
「さて、ひとまず南の方へ行くことにしましょうか……」
「え、これから町を出発するんですか?!」
「えぇ、」と頷くと、少ない荷物を持ち、それからアルティナの方をジトッと見る。
「あなたは清々してるんでしょうけど」
「何のことだか」
惚けるアルティナに「白々しいですわ」と呟いたあと、リタに向き直った。
「また会いましょうね、リタさん」
今度は笑顔で。
「は、はい……カレンさん、お元気で」
戸惑いながらも、リタも笑顔を返す。
そうして、僧侶は去って行った。
姿が消えるまで見送ったリタは、振っていた手を下げ、尚もカレンの去って行った町の入り口を眺めていた。
「……エリザさんに会いに行こうか、」
日が傾き、あたりは夕日色に染まっていた。
家の扉をノックする。しかし……反応は無かった。
「あれ? ……エリザさん、いない?」
「研究室にでもいるんじゃないのか?」
「そっか……て、あれ?」
ガチャリと音がして、扉が開いた。鍵をかけていなかったのだろうか。
「……エリザさん、いた」
エリザはベッドに横たえていた。
「……さっきも寝てなかったか?」
「そういえば……」
最初にここを訪れた時も、うたた寝をしていたと言っていた。
「エリザさん……エリザさん?」
変わらず反応は無く、肩を揺すろうとエリザの肩に触れる。
やけに、冷たい気がした。
「うそ……」
エリザは、息をしていなかった。
その時、新たに扉の開く音がした。
「今帰ったよ、エリザ。あの遺跡の調査には然るべき資料が必要でね。取りに戻って来たんだ」
ルーフィンが帰ってきたのだった。ルーフィンは、そのまま本棚に直行し、まだエリザの方を見ていない。エリザの異変に気付いていなかった。
「……エリザ?」
返事が無いことを不審に思ってか、ベッドの方を向いた。そこで、やっと気付いたらしい。
「どうしたんだエリザ!? 返事をしてくれっ!」
エリザに駆け寄ったルーフィンだったが、エリザに触れた直後、体がピタリと固まった。
おそるおそる、肩にかけていた手を離す。
「死んでいる……のか? ま、まさかエリザ、君も病魔の呪いにかかって?! バカな、病魔は確かに封印したはずだ!町の連中だって治ったって……遅かったのか? ぼくが病魔を封印したときには君はもう……」
「そんな……エリザさん……」
そういえば、よく咳をしているのを見かけた。あれは、流行り病にかかっていたからだったのか。
「どうして……どうして言ってくれなかったんだ!! キミが病魔の呪いに冒されていると知っていればもっと急いだのに……。エリザぁぁぁ!!!!」
ルーフィンの慟哭が、虚しく響く。
部屋に、悲しみが満ちた。
(待ち受けていた結末は、残酷で)10(終)
―――――
やっと僧侶の名前が出ました。
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