第三章 10-1
「申し遅れましたけど……わたくし、カレンと言いますの。僧侶として、旅をしておりますわ」
カレンと名乗った僧侶は、そう言って笑顔を向けた。
「あ、私はリタ。一応旅芸人、なんだけど……」
「まぁ、芸人さんでいらしたのね!」
「新米だけどね」
旅芸人になって、一ヶ月経つか経たないかのリタであった。
「で、こっちが……えーっと一緒にベクセリアに来た……」
「アルティナ。戦士」
アルティナは、自分の名前と職業を言っただけだった。仕方ねぇから言ってやるか、とでもいうような。
それが、カレンのカンに障ったらしい。
一瞬の沈黙が流れる。
「あなたは単語しか喋れないのかしら?」
「さっきからやけに突っかかってくるな。学者のことといい、何かと文句でもつけないと気が済まないタチなのか?」
空気がビシビシと音を立ててひび割れているかのような殺伐とした雰囲気である。二人の間に火花が散っているような気もする。
「二人とも……」
確信した。
この二人、相性最悪だ。
ベクセリアの町へ向かうまでの間、ずっとこの居心地の悪さは続いた。
「おお、待ち兼ねておりましたぞ。リタさん、アルティナさん! それに僧侶の方も!」
屋敷に着くやいなや、町長が飛び出してきた。よほど待ちわびていたらしい。
「どうでしたか、病魔とやらの封印は……うまくいきましたか?」
「はい、ルーフィンさんがちゃんと封印しました!」
すると、町長の顔がたちまちに明るくなった。「そうでしたか!」と歓喜の声を上げる。
「いやぁ、まさかヤツがやってくれるとは……で、肝心のルーフィンはどこに? 一緒だったのではないですか?」
うっ、とリタが息を詰めた。代わりにカレンが憤りながら答える。
「あの方なら、病魔を封印し終わったかと思ったら、さっそく研究だとかでそのまま調査に向かってしまいましたわ!」
「なんとそのまま遺跡に? う〜む、あの学者バカめ。少し見直したかと思ったらこれか! ……まぁ良かろう。それよりルーフィンが帰って来たら祝いの宴を開くとしましょうかね」
さっそく準備だと屋敷に戻ろうとした町長は、「そうだ、」と再びリタ達を見遣った。
「エリザにもそう伝えてやって下さい。ヤツの活躍を聞けばあの子も喜ぶでしょうからな」
「あ、はい!」
エリザの喜ぶ姿が目に浮かぶ。
ルーフィンの活躍を知れば、跳びはねて嬉しがることだろう。
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