第二章 13-3
「あら、守護天使サマのお帰りかしら?」
「いいわよね。お師匠様が優秀だと、こんなに早く守護天使になれて」
表面上は称賛、しかし厭味にしか聞こえないその声。
リタとフェリスの同期の天使だった。
“師匠が優秀だから”
“どうせ、実力なんかじゃ守護天使になれなかったくせに”
そう言った類のひがみや妬みは、事あるごとにリタを苦しめた。
しかし、リタは今までずっと何も言わず悪意ある言葉を流してきた。
そういうところも相変わらずだ、とフェリスは思った。
イザヤールの方針により、性格は何とか矯正された。しかし、根本的な部分はどうにもならないらしい。
(この誰にでもお人よしなところ、どうにかならないものかしら?!)
そう思いながらも、いつも言われっぱなしというのはシャクなので、自分がいる時だけでも反撃しようと心に決めていたフェリスであった。
「まったく……リタよりもよっぽど能無しのくせによく言うわ」
「うるさいわね、アンタには関係無いわ!」
「あら、ごめんあそばせ。うっかり口が滑って真実を言ってしまったわ」
「なんですって?!」
怒りの矛先がフェリスに向かったのを見て、嫌味を言われたにも関わらず、相手を思って心の中で合掌をした。
こういう時は大抵、フェリスに噛み付いた相手が返り討ちに合うパターンであった。
「もう一度言ってみなさいよ!」
「私、二度も同じこと言って、皆さんのお高い鼻を折る趣味無いわ」
そこにいる嫌味な女天使二人組は、実は守護天使まで一番近い人物だと言われていた。しかし、リタが先に守護天使の名を取られたことで、プライドが傷ついたらしい。んな安っぽいプライド捨てちまえよ!と言いたいところだが、リタならともかくフェリスはそこまで優しくない。
だから今度は違う言葉をお見舞いすることにした。
「あなた方、私に関係無いと言ったけれどね。リタがあなた達以上に無能扱いなんて、黙っていられないのよ。そんなの日々努力しているリタが気の毒だし、ひいてはイザヤール様も気の毒だし? というか、イザヤール様しか引き合いに出せないあなた達は、すでにリタに負けてるって気付けないものかしら?」
ここまで言う間、フェリスの息継ぎはゼロ。彼女の畳み掛けるような物言いは、相手を圧倒する力がある。
一瞬怯んだ女天使二人であったが、すぐに気を取り直し、フェリス――というか、その背後にいるリタに言い返した。
「イザヤール様が師匠じゃなかったら、何も出来なかったくせに……いい気になってるんじゃないわ!」
「へぇ、師匠がイザヤール様じゃなかったらこんなことにならなかったって言いたいんだ?」
相手を逆なでするような口調のフェリスに、ついに頭に血の昇った相手は、この舌戦の勝敗を決める一言を言い放った。
「私だって、イザヤール様が師匠だったら……!」
「ふぅ〜ん? つまり、あなた達は今のお師匠様に不満があるって言うのね?」
相手がギクリと身を引いた。それを意地悪く眺めながら、フェリスは更に言い募る。
「あら、そうだったの。だったら……親切にも、私がそれを言いにくいあなた達の代わりに、言ってあげられるけど……」
「う……うるさいっ! 余計なお世話よ!!」
余裕を無くした二人は、そそくさとその場を去って行くのであった。
「さすがフェリス……。ありがとね」
「リタ、あなたねぇ……私がいなかったらどうなってたことか分かってる?!」
呆れ半分、心配半分な顔をしたフェリスだったが……。
「言われるだけなら良いかなって……それに、分かってくれる人がいるならそれで良いの」
傷つきはするものの、フェリスやイザヤールがいてくれるから、リタは立ち直れる。
一方のフェリスはリタの発言が嬉しい半面、脱力感を覚えていた。
「私、あなたの将来が不安だわ……」
そんな真剣に言われても困る。
「……ま、今それをどうのなんて言っても仕方ないか。リタ、そろそろ世界樹の方に行った方が良いわよ」
「あっ、そうだった!」
自分の使命を思い出したリタは、慌ただしく階段を上りはじめた。
「じゃ、フェリス……またあとでね!」
「えぇ、またあとで」
しかし、この後の出来事により、約束が果たされることは無かった――。
(それは突然のことであった)13(終)
―――――
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