天恵物語
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第二章 14

世界樹の傍には、すでに先客がいた。


「……いよいよ世界樹が女神の果実をつける時がきたのかもしれぬの」


「はい、あとほんの少しの星のオーラで世界樹は実を結ぶはずです」


イザヤールと天使界の長老であるオムイであった。
草を踏み締める音に気付いたイザヤールは、弟子の姿を認めると表情を和らげた。


「オムイ様、イザヤールお師匠!」


「ちょうど良いところに来たな、リタよ。見ろ、この世界樹を……。星のオーラの力が満ちて今にも溢れ出しそうだ。さぁ、星のオーラを掲げなさい」


イザヤールの言う通り、世界樹はいつもの様子と違い、幾多にも光り輝いている。
星のオーラを捧げるべく、リタは光を発する大木に歩み寄った。


「女神の果実が実るとき、神への道は開かれ我ら天使は永遠の救いを得る……。そしてその時、我らを誘うは天の箱舟」


オムイの言うそれは、昔から言い伝えられていること。

いよいよ世界樹の実を結ぶ時が来たのかもしれない。

星のオーラを掲げると、オーラは世界樹の中へと消えて行く……。

すると一層に輝いた世界樹は、金色の果実をたわわに実らせた。

これが……


「女神の果実……!」


そして世界樹が実を結ぶと同時にやって来る、金色の列車……。


「あれが天の箱舟……! すべて言い伝え通りじゃ!」


オムイの言葉を、リタは半ば呆然と聞いていた。

言い伝え通りならば、自分達は天の箱舟に導かれ、永遠の救いを得ると言う。


(私達は、これに乗ってどんなところに行くんだろう……)


昔からの疑問だった。

神への道、ということは神様の元へ導かれるのだろうが、それでは“永遠の救い”とは何なのか……。


箱舟が停車した、その時。





――黒い光が、天使界を貫いた。




あちこちから悲鳴が聞こえる。


「これはどうしたことじゃ!!」


後ろからも、動揺の声が聞こえてきた。


「わしらは、騙されていたのか……っ?!」


喘ぐよう呟くオムイを嘲笑うかのように、黒い稲妻のような光は天使界中を襲う。
そしてそれは天の箱舟も例外ではなく、邪悪な光が直撃した箱舟は無惨にもバラバラになって下方へと落ちて行った。


「箱舟が……!」


慌てて駆け寄ろうにも、嵐のような風が吹きすさび立っていられない。

必死に地面にしがみつくが、体力的に最早限界が近かった。
それに気付いたイザヤールはリタに向かって手を伸ばすが、もう遅い。


「リタ……!」


強風に煽られ、リタの体は上空へと舞い上がった。


「お師匠ーーっ!」


伸ばした手は空を掴み、暴風によってリタは女神の果実と共に地上へと落ちていった――。















(そして、今に至る)
14(終)




―――――
ということで過去編終わり。イザヤール様、初登場おめでとうございました!


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