天恵物語
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第二章 13-1

「あっ、お師匠! イザヤールお師匠ーー!!」


滝の近くに現れた人物へ向かって、元気良く飛んで来る少女がいた。


「こんなに星のオーラが集まりましたよ!」


手元には、不思議な光を放つ羽根のようなものがあった。

星のオーラというそれは、人間の信仰心が結晶となったもの。星のオーラを集め、世界樹に捧げ、女神の果実を実らせることで天の箱舟を呼び寄せることができる。
そうして神への道は開け、天使達は永遠の救いを得ることが出来るのだと言う。

だから、天使は星のオーラを集め続けるのだ。


「よくやった、リタよ。しっかりと役目に励んでいるようだな」


褒められた少女・リタは浮かべていた笑顔をさらに深めた。


「私に代わってウォルロ村を任せたときは少々不安ではあったが……。お前の働きにより村人たちも安心して暮らしているようだ。立派に役目を引き継いでくれて、このイザヤール、師としてこれ以上の喜びは無い」


リタの師匠であるイザヤールは自分の守る村を、最近弟子に託したばかりであった。
これから世界中を回るつもりらしく、最後に弟子の顔を見ておこうとウォルロ村に立ち寄ったという。


「……ところでリタ、お前にまだ教えていなかったことがあったのだが」


「……そうなんですか?」


リタはこてんと首を傾げた。身長が低いのも相まってか、かわいらしさが引き立てられる。師匠のひいき目を除いても充分美少女な弟子であった。……本人は無自覚なのだが。


「生きている人間を助けることも天使の使命だが、もう一つ! 死してなお地上をさ迷っている魂を救うことも天使である私達の使命――お前にも聞こえるだろう、この村のいずこからか救いを求める魂の声が」


「声……」


目を閉じて耳を澄ませると、確かにすすり泣く声が聞こえてきた。





――……なんでみんなオレのことを無視するんだ?――





「あっちから、聞こえる……」


声を聞くなり、リタは今来た道を戻った。

辺りをさ迷い声を上げていたのは、がたいが良くて若い男の幽霊だった。


「……ん、あんたオレが見えるのか?! 教えてくれっ、一体どうして皆オレが見えなくなっちまったんだ?」


リタにすがろうとした男は、リタの出で立ちが普通とは違うことに気がついた。

頭上の輪、そして背中に羽根のあるその正体は……


「……あれ? アンタその姿、もしかして天使様……なのか?」


リタは何も答えず、ただふわりと笑った。

リタを天使だと認識した男は、自分の状態にやっと気付いたらしい。


「そうか、俺はとっくに……。なぁそうなんだろ?」


同時に、男の体が淡く発光し始める。
男は、満ち足りた笑顔を浮かべていた。


「ありがとう天使様、おかげでようやく自分が死んでることに気付けたよ。誰にも気づいてくれないのはホントに辛かった。……だから、もう行くことにするよ」


最後の言葉を発した時、男はほとんど消えかかっているも同然だった。

そして、男が唯一残していったものは……


「星のオーラ……」


「よくやったなリタ」


一部始終を見ていたらしいイザヤールが、後ろから歩み寄った。


「あの者も悔いなく天に召されただろう。魂が出すオーラはひときわ大きく輝いている……」


今しがた手に入れた星のオーラは、今までのものと比べものにならないくらい、まばゆい光を放っていた。


「男の人が生きていたという証、ですね……」


どうか、安らかに眠って欲しい。

イザヤールは「そうだな」と相槌を打った後、何かに気付き空を見上げた。


「天の箱舟か……」


星空の中を、金色の列車が横切って行った。


「近頃やけに慌ただしい……。気が変わった。リタよ、私は今一度天使界へ戻るがお前はどうする?」


「はい、私も戻ります!」


元気よく答え、天使二人は天使界へと向かって羽根を広げた。


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