天恵物語
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第十一章 07

村の少年ティルに連れられて、カレン達は村の中でもひときわ立派な家にやって来た。村長の家らしい。ここに、リタがいるとのことだった。
村の入り口で一悶着あったものの、すんなりとリタがいるという部屋へ案内してもらえた。それもこれも、ケンカを止めに入ってくれたティルのおかげだろう。
ティルを見た途端、サンディは「あーっ!」と大きな声を上げた。曰く、その子がリタを助けてくれた少年なのだ、と。


「ここだよ」


ティルは部屋の中で眠る少女を気遣ってか、静かに扉を開ける。
扉を開けると、まず棚やサイドテーブルが目に入った。こぢんまりとした部屋の奥、窓際にベッドが置かれている。
そこに、リタがいた。


「リタ!」


思わずといったようにカレンがベッドに駆け寄った。それに続くようにレッセも後を追う。
名前を呼んでも、反応はない。ただ昏々と眠り続けるリタの瞼は重く閉ざされている。


「やっと熱が引いたところで……ずっと眠ってるんだ。昨日、少しだけ起きたみたいなんだけど、意識が朦朧としてるみたいだった」


ティルによれば、この村に落ちてからは完全に覚醒することはなかったという。どこの誰なのか、どうして空から降ってきたのか、分からないままで困っていたらしい。
ベッドへしがみつくように張りついていたカレンは、改めてティルの方へと体を向ける。


「ティルさん……と言いましたわね。本当にありがとうございました」


「ううん。お姉さん達の知ってる人で良かったよ」


ティルは本当に安心したように微笑んだ。それから、「あ、」と何かを思い出したかのように小さく声を上げた。


「そうだ、水を汲みに行こうと思ってたんだった。ちょっと僕行ってくるね」


ティルが出ていくと、部屋はしんと静まり返った。窓から差し込む穏やかな淡い光とは裏腹に、部屋には重苦しい空気が漂う。アルティナがベッドへと近づく足音が、やけに大きく聴こえた。
カレンは食い入るようにリタを見つめている。レッセも押し黙ったまま何も言わない。
アルティナの大きな手がリタの前髪をかき上げれば、白い包帯が現れた。首もとにも見えるそれは、きっと身体中に巻かれているのだろう。それだけ負った怪我の重さを物語っており、この状態でよく生きていたと思えるほどだ。


「酷い怪我だな」


「全くですわ」


アルティナが苦々しく呟くと、すぐさま同意の言葉がカレンから返ってきた。


「こんなにたくさん怪我を……どうしてリタがこんな目に合わなければなりませんの」


誰かに訴えるような沈痛な声は、ただ空しく部屋に溶けるように消えていく。
――こんなに無力を思い知ったことはあるだろうか。
人間の知らないところで、そして人間には手の届かないところに、天使は存在するのだと。無情な現実は、痛いほどにその意味を知らしめる。
待ち焦がれた少女との再会は、重くそして苦しいものとなった。









(再会の朝)
07(終)




―――――
やっと再会です。


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