天恵物語
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第十章 19-1

しばらく戦い続ければ敵の攻撃パターンが見えてきた。レッセは、マホカンタでシールドを張り直しながら注意深く分析する。
シャルマナからの攻撃は、ほとんど呪文だけと言っても良い。杖を振り回すことはあっても、後方に控えるレッセには当たらない。呪文も、マホカンタで跳ね返す。リタ達がシャルマナの相手をしてくれているため、レッセはある種の無敵状態を保ちつつシャルマナの一挙一動を見逃さないよう観察する。
シャルマナへの攻撃は、リタやアルティナ、カレンがしてくれる。レッセの役割は、シャルマナの攻撃を予測し妨害することだ。
シャルマナが杖を振るう仕草を見せた。魔法を使う気だ。レッセはそれに合わせて自分も呪文を唱え始める。


(あれは……氷の呪文)


――ならば。


「メラミ!!」


正反対の呪文をぶつける。炎はシャルマナではなく、その氷の呪文へと仕向けられたものだ。鋭い切っ先をアルティナに向けようとした氷の刃は、炎の玉と衝突し相殺されて白い湯気が立ち上る。
アルティナの剣が水蒸気と共にシャルマナを切り裂く。立て続けに、リタが水蒸気の白煙を凪ぐようにして扇を振るった。
今の攻撃でかなりのダメージを負わせたはずだ。
この調子で攻撃していければ、シャルマナを倒すのもそう難しくはない。レッセは杖を握り、リタ達が離れたのを見計らってもう一度メラミを唱えた。
炎はシャルマナに当たったものの、やはりあまり効かないようだった。しかし……呪文が当たった瞬間に見えた、シャルマナを覆う空気の揺らぎをレッセは見逃さなかった。


「マジックバリアか……?」


魔法の威力を軽減する補助呪文だ。だから魔法が効かなかったのかとレッセは納得し、そうなるとやはり打撃による攻撃が有効らしいと確信した。
だが、隙が生まれるくらいには効くらしい。炎を振り払っていたシャルマナは、背後の人の気配に気付けずにいた。攻撃の隙を伺っているのはリタやアルティナだけではない。
前後不覚となったシャルマナの背中に、カレンが槍を横に大きく一振りさせる。
シャルマナは苦悶の声を上げ、苛立たしげに杖を振った。相手が冷静さを欠くほどに、次に何の呪文を唱えるか先読みしやすくなる。先ほどまで苦戦していた戦いが、今ではかなり有利な状況となっていた。


「イオラだ! みんな下がって!!」


レッセが声を張り上げて知らせれば、三人は素早くシャルマナから距離を置く。
読み通り、シャルマナはイオラを唱えた。レッセはマホカンタで呪文を弾きながらその場で耐えていた。跳ね返った魔法がシャルマナへと向かう。マジックバリアがあるため大したダメージにはなっていないが、それでも構わない。レッセは、近い内に訪れるだろうその瞬間を待ち続けていた。
爆発が収まりかけたその時、キン、と何かが砕けるような儚い音が聞こえてきた。同時に、シャルマナを覆う壁も消える。


(今だ!)


マジックバリアの消える音を聞き、レッセはすかさず杖をシャルマナへと振りかざした。
魔法耐性のなくなった今こそが、チャンスだった。


「マヒャド……っ!!」


白日の草原に、巨大な氷の柱が現れた。いきなり出現した氷の柱に皆の目線が釘付けになる。それほどの存在感があった。


「すごい……」


リタは水晶のような形をした氷柱を見上げる。予想外に驚いたせいか、逆に感情が抜け落ちたような呟きが口からこぼれ落ちた。
隣で、アルティナも呆れたような視線を氷に向けた。


「これはまた……派手にやったもんだな」


シャルマナの近くにいたら自分達まで巻き込まれかねない。もちろん、レッセはそのタイミングを見計らって魔法を放ったのだろうが。
集落のパオの背を越えるほどの氷柱は、シャルマナを貫くようにそそり立ったかと思うと、ガラスが砕け散るような音を立ててガラガラと崩れ落ちていった。


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