第二章 08-2
アルティナは一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。
というか、今も理解出来ていない。
(桜……?)
遥か東に存在するという華。その花びらが視界一面を覆って他に何も見えなかった。
手で払おうにも、花びらの量は半端でなかったため意味無し。
というか、なぜこんなことになったのか。
まぁ、心当たりがないわけではないが。
(アイツか……?)
リタが大声を上げた途端に目の前が突然一面花びらだらけ……だったので、何らかの方法――幻惑の効果のある技と思われる――を使ったのだとアルティナは確信した。
少しすると、視界が一気に開け目の前には阿呆面を呈する兵士失格な馬鹿。間抜けなツラ……とかなり失礼なことを思いながらリタに意識を向けた。リタは扇を持ち突っ立ったままで半ば呆然としている。
ちなみにこの時リタは、「しまった!!」だとか思っているのだが、それは皆の知る由も無い。
(必死すぎて、加減忘れた……)
先程の花吹雪のせいで町の一部が花びらだらけになった……かと思われた。しかし桃色の花びらはいつの間にか跡形も無く消えていた。
その時、門の奥から感心の声が聞こえて来た。
「さすがです! 泥棒に真っ向から立ち向かっただけありますね」
どうやらその人物と知り合いだったらしく、リタが「あ、」と声を上げた。
「あの時の……」
「すみません、血気盛んなヤツらばかりで。どうぞ城にお入り下さい」
なんと、あっさり入場を許可された。今までのは何だったのだろうか。リタもアルティナもそう思い、目を瞬かせる。
「あなたのような勇敢な方に黒騎士退治をしてもらえるなら大歓迎ですからね」
にっこりと穏やかな笑顔をリタに向けるその人を見て、アルティナは思った。
こいつ、本当に兵士か?
「た、隊長?!」
隣の兵士、つまり馬鹿(最早敬意を評する価値無し)が素っ頓狂な声を上げた。
優しげな風貌のこの人は、兵士達の中の隊長なる人だったらしい……。
「やぁ君たちお勤めご苦労様。わざわざ余計なことをしてくれてありがとう。……以後気をつけるように」
最後の一言はかなり低音。兵士の隊長は、しっかりと兵士――主に馬鹿――に釘を刺し、どうぞこちらにとリタとアルティナを誘導した。
これでやっと、セントシュタイン王に会えそうだ。
(今回はこいつのお陰、か)08(終)
―――――
こいつとは、もちろんリタのこと! 少しリタを見直したアルティナでした。ちなみにリタが使った技は……扇の使い手を育てた方は分かりますよね。
ていうか兵士長いたけど、良いよね隊長作ってみてもさ……みたいな。それとも、ゲームにいただろうか隊長。
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