天恵物語
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第十章 13-1

「ここまで来れば……」


足元がようやく安定し、一旦の安心を得たものの、油断はできない。足止めを食らったがいこつ兵も、じきにこちらを追ってくるだろう。


「とりあえずは大丈夫でしょうけど……この先は橋を渡らないといけませんのね」


カレンの目線の先には橋がかかっていた。前へ進むには、橋を渡らねばならない。そんな場所で魔物に襲われたりでもしたら堪ったものではない。
先程、がいこつ兵の視界を奪いはしたが、あくまで一時的なものだ。やりすぎれば自分達も視界を奪われてしまうことは過去に実証済みである。
応戦すべきか、さっさと先に進んで引き離してしまった方が良いのか。
橋の向こうに視線を巡らせたリタは、壁にぽっかりと空いた黒い穴に目が止まる。


「洞穴……?」


遠目からも気になっていた、あの洞穴はどこへ続いているのだろう。村がすでに洞窟のような場所なので、洞穴の中に洞穴があるようで何だか奇妙な感じがした。


「なーんか怪しくナイ? コレは行ってみるっきゃないっしょ!」


「それはそうかもしれないけど……」


サンディの言葉に根拠はなくほとんど勘であるが、それでも同意を示したのはリタも気にはなっていたからだ。


「行くなら今のうちに渡った方が良い」


がいこつ兵のいないうちに。
そう言ってアルティナが橋へ一歩を踏み出そうとすると、橋の直前で唐突に地面が盛り上がった。このパターンは先程も経験した。言わずもがな、がいこつ兵である。
地面があればどこからでも出現するがいこつ兵にアルティナの顔が歪む。


「……また出たか」


半ばウンザリとしながら剣を構え、横に凪いだ。体勢を崩したがいこつ兵の胴を蹴ると、谷底へ真っ逆さまに落ちて行った。
それを皮切りに、またがいこつ兵が次々に湧き出してくる。


「どーしてこんなにたくさんいるのヨーーっ!!」


サンディが絶叫する傍ら、カレンはふと思い出したように「そういえば、」と声を上げる。


「ダーマの神官様が言っていましたわ。ゾンビ系の魔物が一匹でもいたらそこには五十匹いるものと思え、と……」


「そんな台所昆虫みたいな考え方で良いの?!」


その斬新な判断方法はもちろん、それをダーマ神殿で教わったというのがレッセには衝撃的だった。いかに魔物について習ったとはいえ、そんなことまでは教えられなかった。
それにしても、がいこつ兵の数が多い。次から次に増えていく様を見ると無限に湧き出してくるのではと思ってしまう。いくら倒してもキリがない。


「何でこんなにいるんだっ……イオラ!!」


炎で一体一体倒すのでは効率が悪いと感じたレッセは爆発の全体呪文を唱えるが、炎ほどの手応えは感じられない。


「なぜ村が滅びたのかは分かる気がしますわ!」


カレンも手持ちの槍で対応する。敵の武器も槍であるが、動きが鈍い分こちらが有利だ。
それでも苦戦するほど敵の数は多い。戦闘経験もないだろう村人達が相手になるわけもなかった。
四人で応戦しながら、橋への道を確保する。敵全員を相手にしている暇も体力もない。


(今だっ!!)


隙をついて、一気に橋を駆け抜けた。橋は思いの外頑丈な作りをしていた。走ると軋みはしたものの、崩れる様子はなく状態も悪くない。
アルティナ、リタ、それからレッセとカレンも続く。
全員が渡り終えたのを確認し、洞穴の中へと飛び込むように駆け込んだ。
下へと繋がる階段が続いていた。どこへたどり着くかは分からない。敵が後を追って来ないかが不安で後ろを振り向いたが、何かが迫って来る気配はなかった。どこへ向かっているのかは知らないが、後ろにがいこつ兵がいることを考えれば引き返せないし、こんなところで立ち止まっている場合でもない。とりあえず進むしかない。他に別のがいこつ兵が出てきたらどうしようかとヒヤヒヤしたが、進めば進むほど魔物の気配は希薄になっていった。


「……ここまでは追って来ないみたい」


あんなにしつこく追われていたのに、リタ達が入った通路には一匹も姿を見せていないし追っても来ない。ひとまず安心はしたが、どうしてか分からず首を傾げた。


「にしてもサ、ビックリしたよねー。さっきのがいこつ達って一体何だったワケ? いくらなんでも数が多すぎなんですケド」


「昔は村でも、今ではあの魔物の巣になっているのかも」


カズチャ村は魔物によって滅ぼされたと聞いたが、あれもがいこつ兵達の仕業なのだろうか。
そんなことを考えながら階段を下りていると、やっと階段の終わりが見えてきた。


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