天恵物語
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番外編 とある少年の不憫な恋2

しかし数日後、そんな決意を呆気なく崩してしまう出来事が起こった。
いつものようにレヴィルが店番をしていると、リタが買い物にやってきた。その時ちょうどレヴィルの母親も店に顔を出しており、リタと面識のある母は明朗に話しかけた。


「リタちゃんじゃないか、いらっしゃい。いつもありがとうね」


「いえ、こちらこそいつも助かってます」


控えめながらも明るく笑顔で対応するリタは母親ウケも良い。きっとリタなら母との関係も良好だ、嫁姑問題なんて起きないだろうなぁ……とかなり気の早すぎることを思ってから、レヴィルは頭をぶんぶんと振った。一体何を考えているんだ自分は。だいたい、まだ付き合ってもいないというのに……。
何気ないように装ってリタと世間話をしていると、カランカラン、と扉の開く音がした。次の客が来てしまったようだ。もうリタとの会話は終了かと名残惜しく思いつつ、商品を詰めた紙袋を渡す。
「いらっしゃいませ」と次の客へ目を移す。リタが紙袋を手に振り返ったのも同時だった。
端正な面持ちの男で、冒険者や旅人といったような身なりをしている。女性にモテそうな男だとぼんやり考えていると、その男は扉の前で「リタ、」と呼び掛けた。……耳を疑うとはこのことか。
どうやらこの男は、リタの知り合いらしい。


「あれ、アル?」


呼び掛けられたリタは、小走りで駆け寄る。その様子を見るに、かなり親しげである。レヴィルは思わず二人を凝視してしまった。


「どうしたの? 何か買うものがあるなら言ってもくれれば良かったのに」


「いや、別に買うもんはないが……アイツらがお前を迎えに行けってうるせぇんだよ」


「えっと……カレンとレッセ? それとも宿屋のみんな?」


「両方」


なぜ、とリタの顔には書いてあったが、アルと呼ばれた男は特に何も言わない。それから、チラリとこちらへ視線を寄越す。……その視線がどこか冷ややかなのは気のせいではないはずだ。
この男は一体、リタとどういう関係なのか。冷たい視線を向けられるその意味は……ひょっとして、恋の好敵手というヤツだったりするのか。
それとも……いや、これだけは考えたくない。考えたくはないが、もしや……。


「あらまぁ! リタちゃん、もしかしてそちらの彼は噂の新しい恋人かい?」


悪い予感というのはどうしてこうも当たりやすいのだろうか。レヴィルは、持っていた小銭を手からこぼしかけた。母は今、何と言った。耳で聞いてはいたが、頭に上手く入ってこない。
――噂? 新しい恋人?
呆然とリタの様子を窺えば、頬を真っ赤に染めていた。母の言ったことが事実であると、その表情が雄弁と語っている。駄目押しとばかりにはにかみながら肯定されれば、レヴィルは頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けた。が、もちろんリタがそれに気付くことはない。母はというと、「まぁまぁ!」と興味津々に二人に駆け寄った。


「へぇ、アンタがねぇ……いいかい、この子を大事にするんだよ。リタちゃんに男が出来たって聞いて何人の男が泣いたことか……」


母の勢いに、男は若干たじろいだのか「はぁ……」と気のない返事をする。そりゃ、いきなり知らない人にあんな風に詰め寄られたら誰だって戸惑うだろう。
一方で「そんな大げさですよ」とリタは苦笑するが、別に大げさだなんてことはないはずだ。現に、泣きそうな男が今ここに一人いる。
また二人でいらっしゃいね、と母は上機嫌で扉を開けて送り出すが、こちらとしてはたまったもんじゃない。当分は店番なんてやりたくないし、出来そうにもない。あぁ、でもそんなことをしたら母にいろいろとバレてしまう可能性が……。レヴィルはうちひしがれながら目の前の三人の様子をそっと窺う。
あんな見た目の良すぎる男がいるなんて反則だ。若干恨みがましい目で二人を見つめる。
おもむろに、その男はリタに向かって手を差しのべた。どういう意味か良く分からなかったらしいリタは首を傾げる。
……手なんて繋がれた日には完全に心が折れそうなのだが。傷心のレヴィルは失恋の痛みに堪えながら事の成り行きを見たくなくても見届けた。
首を傾げながらも何となく自分の手を重ねてみたリタに、男は少しの間沈黙してから「……そうじゃなくて、」とリタの持つ紙袋を取り上げた。差し出された手はちゃっかり握ったままだ。そのままリタを引っ張るように男は外へと向かう。
ぽかんとそのやり取りを見ていた親子に、同じくぽかんとしていたリタだったが、去り際お礼を言ってその場を後にした。その表情はまぎれもなく幸せそのものの笑顔だった。
母が二人の後ろ姿を見送り、「はぁ……男前ねぇ……」とうっとり呟く。それから、カウンターに立つレヴィルに向かって言った。


「レヴィル、アンタもあれくらい出来ないと駄目よ!」


「……あー、もう……分かってるよ……」


あんなの反則だ。ズルい、いろいろと。
やはり人間は顔だけではなく、肝心なのはその中身。……自分の言葉が、そっくりそのままのしかかってきたような気分を味わった。
叶わないな、とレヴィルはアッサリ降参の白旗を上げた。悔しいけれど、これ以上ないとほどお似合いのカップルだと、レヴィルは素直に認めたのだった。

こうして少年の恋は、甘いだけではない、ほろ苦さを残しながら幕を閉じたのである。



終わり。

―――――
つっくいた後のアルリタが見たい!というご要望にお答えしまして、書いてみました。不憫な少年視点で、二人の仲の良さが伝わったらいいなと思っ……たけど、なんか少年ばっかに焦点当たってしまった! いえ、後悔はしてません。けれども、こんな感じで良かったのかなぁ……。いちゃつき要素的なのが驚異的に少なくてすみませんが、それは本編後ちゃんと書くつもりですのでご勘弁を(^-^;


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