天恵物語
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第十章 06

リタ達は、ナムジンがいるという狩人のパオに向けて足を進める。


「なんてゆーか……またミョーなことに巻き込まれちゃったわねー」


ま、いつものコトか、とサンディは肩を竦めた。それに対して、いつもミョーなことに巻き込まれている自覚のあるリタは少々居心地の悪い思いをしていた。


(私だって好きで巻き込まれてるわけじゃない、けど……)


そう反論したいのは山々だが、言ったところで説得力がないとバッサリ切られるのがオチであった。
事件あるところに果実あり。――果実が原因で事件が起こるのは最早お決まりになりつつある。今回の集落の騒動に果実が関わっているかは未だ不明だが、可能性はある。果実抜きにしても、困ったことが起きているなら天使として何とかしたいとは思うわけだが。


「サンディは、ナムジンさんの手助けに行くの反対?」


「別にそんなこと言ってないじゃん。ただサー、あのシャルマナとかいう占い師っポイ人、やっぱりうさんクサげなんですケド?」


サンディは隠れて族長のパオでの様子を窺っていたようだ。先ほどのパオでのやり取りを思い出し、リタの横で口許に手を当てて考える仕草をする。
サンディの言葉に、カレンも頷く。


「いきなり現れたと集落の人は言ってましたけど、それ以前はどこで何をやってた人なのかしら?」


格好や言葉遣い、仕草――どれを見ても、シャルマナが遊牧民である要素は皆無だ。着ている物も、体の線が出る露出高めの服ながら、体をすっぽりと包む布を頭から被せている。どこかの民族衣装のようではあるが、動きやすさを重視した遊牧民の女性の装いとはかけ離れたものだ。口許を布で覆い隠しているせいか、ミステリアスな雰囲気をより一層醸し出している。


「何者かは知りませんが、あやしいことこの上ないです」


レッセはきっぱりと言い切った。よそ者と呼ばれたリタ達ですらそんな認識である。遊牧民の中でもシャルマナへの評価は分かれていた。その理由は、シャルマナの扱う不思議な力によるものが大きい。魔法でもない、その得体の知れない力が遊牧民の不安を誘うのだろう。


「うん……それに、果実の話をしたら何か動揺してたみたいだし」


「リタにまで勘づかれるんだから中々よネ……」


「え?」


「ううん、何でもなーい」


ぼそりと呟かれたサンディのぼやきはリタの耳にまで届かなかった。聞き返してみても、サンディはサラリとしらを切る。リタは首を傾げたが、それよりもシャルマナのことだ。パオでのやり取りを思い返せば、疑惑は強まるばかりである。


「占い師のこともそうだが、魔物退治の方はどうするつもりだ?」


「そうですわ。あの情けない若様、ちゃんと魔物退治に行ってくれるとは思えませんわ」


ラボルチュによって強制的に連れていかれたナムジンは、最後まで魔物退治を全力で嫌がっていた。
あの様子を見て、確かに魔物を倒させるどころか退治に行かせるのも大変そうだとリタも思ったけれど。


「そこは何とか……せ、説得を……」


「できるといいケドねー」


サンディは無理とでも言いたげである。やってみないと分からない、と言いたいが……ナムジンの態度を考えると説得も一苦労だろう。


「突撃ホーンでも追いたてれば良いんじゃないか?」


「荒治療にも程があるから……というか、それでナムジンって人がケガでもしたらどうするんだよ!」


アルティナは本気で言ったわけではない――むしろ適当すぎる――だろうが、レッセはため息混じりに突っ込んだ。族長の息子の身に何かあれば、自分達もただでは済まないだろう。
本末転倒なアルティナの策はさておき、まずナムジンをどうやって魔物退治に行かせるかが問題である。


「とにかく直接話してみないと。ナムジンさんは優しそうな人だったし、話くらいは聞いてくれるんじゃないかな」


魔物を怖がる人だったが、シャルマナへの態度を見て、人当たりは良さそうだ、とリタは思った。他四人は、あまり釈然としない顔をしていたが。
レッセは肯定も否定もせず、ナムジンの行動を今一度思い返す。


「優しそう、かもしれないけどさぁ……」


「モノは言いようネ」


ホントにお人好しなんだから、とサンディの声は呆れたような響きを含んでいる。
ナムジンへの印象は悪いとまでは言わないが、良くもない。単なる見栄っ張りの臆病にしか見えなかったのが正直なところだ。優しそうというのも否定は出来ないもないが、微妙なところだ。
ほどなくして、ラボルチュの言っていた北の狩人のパオが見えてきた。あそこで、ナムジンが魔物退治の準備をしているそうだが……一体これからどうなることやら。リタはナムジンが魔物退治に行ってくれることを願いつつ、狩人のパオを目指した。
草原には相も変わらず穏やかな風が吹き抜ける。不穏な影など何一つ見られない、晴れやかな空が広がっている。騒ぎとは無縁です、とでも言うような平和な風景だった。







(騒ぎとは裏腹に)
06(終)




―――――
シャルマナは呪術師らしいですが、占い師って言った方がなんか胡散臭そうかなーと。……似たようなものですかね。


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