天恵物語
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第十章 02

霧深い湿地を越えれば、広大な草原が目の前に広がった。さらさらと、風の草を凪ぐ音が聞こえる。それと同時に、吹き抜けてゆく風はリタ達の髪をもなびかせた。遥か遠くには、ずっしりと腰を下ろしたような山々が雲の合間から顔を覗かせている。
カルバドの草原は、隣のエルシオンの雪原とはまた違った趣があった。
リタは、その大地に足を踏みしめる。湿地とは違い、もはや地面がぬかるむことはなかった。


「着いたネー、草原」


「うん……遊牧民の集落がすぐに見つかると良いんだけど」


サンディはリタの周りを漂いながら草原を眺めており、リタもまた眼前に広がる大草原を眺めた。見渡す限りの草原は見晴らしが良いものの、その広大さゆえに集落を探すのは手間取りそうだ。
別に集落でなくとも、放牧しているところでも見つけることが出来れば事足りる。そこに遊牧民が一人はいるはずなので、その人に集落の場所を聞けば良いのだ。


「こうも草原だけしか見えないと、何だか途方に暮れてしまいそうですわ」


カレンの言う通り、草原は一面に草が生えているだけで、人がいるような気配は今のところ全くしない。たまに猪のような魔物や鳥のような魔物が前方を横切っていくだけだ。
どんなに目を細めたって、人の視力には限界がある。今はとにかく、草原を歩いて探し回るしかないのだ。
小一時間も歩けば、前も後ろも辺りは草原だけとなった。後ろを振り向き、自分達がどれだけ歩いてきたかを実感する。


「あら……? あの、あちらで煙が立ってるように見えませんこと?」


「え……あ、本当だ!」


カレンの指し示す左前方へ顔を向ければ、白い煙が空へ上がっているのが見えた。


「何か燃やしてんのか?」


「だとしたら、人がいる可能性が高いですね」


つまり、煙の出ている方へと向かえば集落につくかもしれないわけだ。この辺りに炎系のモンスターはいなかったはず。だとしたら、そんな草原のど真ん中に何かが燃えるということは、人間の手が加わっている以外にほぼ有り得ない現象だ。
もしかしたら、集落があるかもしれない。


「おおっ、マジで? そうと決まればサッサと進もーっ!!」


サンディの元気な掛け声と共に、一行は煙を目指して歩き出した。すると、何もなかったはずの草原に、黒い影が次第に姿を現しはじめる。それは近づくにつれ、どんどんと大きくなり、目の前に着く頃には、それが集落であることを確信していた。
カルバドの集落、と呼ばれているその場所は、遊牧民族の一つが住んでいて、のんびりと生活を送っているのだそうだ。
だが、その中には――集落の平穏に影を落とす存在が潜んでいたのだった。









(遥かなる草原)
02(終)




―――――
集落到着ー。
ちなみに、ゲームでは霧深いヤハーン湿地を抜けずとも草原に着きますが、今回は通過するということにしておきます。


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