第十章 01-2
旅支度……と言っても、身動きが取りやすい考慮をし、荷物は必要最小限に抑えている。エルシオン学院から戻ってきたばかりというのもあって、準備と言ってしまうのが大袈裟なくらい、ほとんど何もしなくて済むのだ。ただ、確認はしっかりと怠らずにしておかなければ、いざというとき困る。リタは自身の武器に不備がないか入念に確認し、問題ないことが分かると元の位置に戻した。
これで、自分の準備は整った。後は他の三人がどうしているかだが、そのうちの一人がリタの前に顔を出した。
「リタ、」
「あ、レッセ。明かりは見つかった?」
「うん、手頃なのがあったよ」
結局、口ケンカしながらも倉庫へ向かったレッセとアルティナであった。もっとも、レッセとアルティナのケンカは今に始まったことではないし、カレン曰く仲の良い証拠だということで、リタは二人についてはあまり心配していない。確かにケンカばかりではあるが、そんな中でも二人の間にはギスギスとした空気があまり感じられない。アルティナのカレンの初対面時は、リタもどうしようかと思ったほどなのだが。これはもう、相性の問題だろう。
ともかく、倉庫では目的のものが見つかったようで良かった。
「あの……リタ、学院に来る前までどんな旅をしてたのか聞いても良い?」
遠慮がちに訊ねられ、リタはきょとんとした目をレッセに向けた。それから、「あ、」と何か閃いたように声を発する。
「気になるよね、こんな大きな船もらったりして」
「ええと、まぁ……」
それもあるが、ただ純粋にリタ達が今まで何をしてきたか気になるというのもある。
「サンマロウの商人の娘さんのもの、だっけ。てことは、サンマロウに行ったことがあるの?」
「うん、エルシオン学院より二つ前に訪ねたのがサンマロウだった。セントシュタインと同じくらい立派な建物が並んでたなぁ……」
そこで出会ったのがマキナだった。マキナはカレンの知り合いだったということで、船を貸してくれないか相談しようということでマキナを訪ねたのだが、彼女はかなりの変わり者として有名になっていた。その正体はマキナに成り代わった人形マウリヤで、人形が動き出したのは女神の果実を食べたせいだったせいだったのだ。誘拐されてしまったマウリヤを取り戻すために、洞窟へ潜ったり洞窟のヌシと戦ったりと様々なことがあった。特に、大グモとの戦いは本当に大変だった。
サンマロウでの出来事をかいつまんで話せば、レッセは熱心に聞き入っていた。リタの話をレッセが聞くという、エルシオンから船へ戻る時とは逆の状況だった。
「リタ達は、そうやってずっと冒険してきたんだね」
そんなことがあったのか、とレッセはしきりに感心する。リタはくすぐったいような思いで、レッセを見ている。
「レッセは、学院に行く前は何をしてたの?」
聞いた瞬間、レッセの表情が一瞬固まった、ような気がした。
「学院に行く、前は……親戚の家に居候してた感じかな」
少し歯切れ悪くレッセは語った。その顔には笑みを浮かべていたものの、どこか少し無理しているような感じがする。
「あの……レッセ、ごめんね。辛いこと思い出させた?」
「え? あ、いやっ……大丈夫だよ! それに辛いことばっかりじゃなかったし」
リタの申し訳なさそうな顔に、少しばかり焦ったレッセは取り繕う。
「正直、あまり良い待遇を受けた覚えはないけど……でも、僕を助けてくれる人がいたから、その人のおかげで学院に入学出来たんだ」
「うん……そっか」
よほど信頼を寄せた相手なのか、その人の話をするとレッセの表情は柔らかくなった。
「さて……準備も終わったし、そろそろ行こうか」
「うん」
船の中では、まだやることがいろいろと残っている。それらを片付けなければ、と扉へ向かうリタにレッセが声をかけた。
「リタ、」
「なに?」
「また今度、聞かせてくれる? リタ達の旅のこと」
目をぱちぱちと瞬かせた後、リタは柔らかく微笑んだ。
「うん、もちろん」
(次の目的地に向けて)01(終)
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十章スタートです!
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