第九章 30-1
日もとっぷりと暮れかけた頃。
リタとアルティナとカレンの三人は、寮の一室に集まっていた。
「あーもうっ、まだ事件解決しないの?」
荷物に埋もれたサンディが鳥の羽やら夜のとばりやらに身を埋うずめながら駄々をこねた。
「パパっと事件解決して、さっさとここから出よーヨ! 寒くて外にも出らんない!!」
「そんな格好してたら誰だって寒いんじゃないかな……」
「つーか見てる方が寒い」
リタは苦笑しながら、アルティナは呆れながら荷物に紛れたサンディを眺める。
サンディは相変わらずのギャル衣装で身を包んでいる。フリフリの派手な服はどこからどう見ても常夏の格好で、しかも黒く焼けた肌がそれに拍車をかけている。
「もっと暖かい格好すれば良いのに」
「はぁ? そんなことしたら、謎の乙女(ギャル)の名がすたるっつーの! アンタ分かってないわねリタ!」
誰も分かっていないと思う。ギャルがいかなるものかもよく知らない三人は、サンディのこだわりを理解するのも難しかった。
「で、結局のところどうなのよ? 犯人見つかったワケ?」
サンディは外に出られないため、行動範囲は寮の中に限られていた。外からの情報は全てリタに頼っていた状況である。
今日の成果を三人が報告すると、サンディは腕を組んでそれを聞いていた。
「そんなの、そのエルシオン卿とか言う幽霊が犯人に決まってんじゃん。間違いないっしょ!」
あたかも探偵になりきったかのようにビシッと指差したサンディであるが、これと言った根拠はない。
「ど、どうしてそう思うの?」
「え? アタシのカン」
自信満々に言い切った。――サンディは探偵に向いていない。その場の全員が思った。
「……で、でも確かにエルシオン卿が怪しいのは事実ですわね」
というか、それ以外に怪しい人物が今のところいない。誘拐は幽霊の仕業だということと、エルシオン卿の墓から女神の果実が消えていることを考えると、やはり犯人は幽霊になったエルシオン卿なのではないか、と考えられるのだ。
「とにかく! 明日こそ犯人捕まえて、そんで約束のお礼もらって、さっさとこんなサムイ場所おさらばしたいんですケド! 頑張ってくるのヨ!」
自分は暖かい場所から動かないくせに、サンディは無責任に言い放つ。いつものことであり、サンディらしい発言であるので、誰も気にはしない。が、その言葉の中の単語にリタは首を傾げる。
「約束……」
そう、誰かと約束をしていたような気がするのだが。
「はっ、約束!!」
「約束がどうかしましたのリタ?」
「ちょっと、いきなり何なのヨ?」
「あ……えーっと、実は」
モザイオと偶然会い、少し話をした後、なぜか深夜に肝試しをすることになったことを話すと、三者の反応はそれぞれだった。
「肝試しに守護天使像を使うなんて、バチ当たりも良いところですわ」
と、最も僧侶らしいことを言ったのは、もちろんカレンである。
「えー、良いんじゃない? 肝試しとか楽しそーじゃん。アタシも行こーっと」
「サンディ、外は寒いんじゃ……」
「楽しければそれで良いのヨ!!」
寒いのは嫌だが、楽しいことが絡むと別らしい。しかも、その夏の服のまま行くというのだから、根性があるのかないのか、よく分からない。
そして、アルティナがぼそりと一言。
「肝試しって……俺らやる意味あるのか?」
……それはリタも思った。
[ back ]