第九章 19-2
道行く生徒に手当たり次第、女神の果実について聞いてみたものの、そんなに都合よく目撃情報が得られるはずもなく。
日も傾き、外は暗くなりはじめていた。もうそんな時間かと思ったが、年中雪の降るこの地域は日が落ちるのも早い。曇天のせいで日が差すことも少ないため、学院では日中でも照明がついている。
「さすがに、そう簡単にはいかないものですわね」
今のところ、収穫はゼロ。それに、ほとんどの授業が終了したためか、生徒の数自体が少なくなってきた。
これ以上の情報収集は無駄かもしれない。
「一応、お墓の様子も見ておく?」
「ですわね。そういえば私、ちゃんと見たことありませんでしたわ」
遠目に窓の外からは墓の存在を把握していたのだが、授業など時間に縛られていたせいもあり、間近で見るのはこれが初めてだ。リタは先日レッセと共に訪れていたため、二回目である。
エルシオン初代校長の墓は校舎の東側にある。そちらへと足を向けると、窓の外に雪を被った石碑が見えてくる。それから、その傍らには生徒が一人立っていた。女子生徒だ。
先客がいるとは思わず、リタとカレンは二人して顔を見合わせる。
「人がいる……お墓参りかな?」
「何だか妙ですわ……こんな時間に墓参りなんて」
「妙?」
まぁ、確かに暗くなりかけた時間に雪も降っている中、お墓を見に来る人はあまりいないだろうが。
「それに、昔から良く言いますわ……犯人は現場に戻るものだと!」
「犯人、って……」
――何の?
どーん、と言い放ったカレンに首を傾げざるを得ない。 昔から、というのも分からないが、人間界では良く言われていることなのだろう、とリタは納得しておく。
生徒失踪の件はともかく、女神の果実自体に危険性はあまりない。……まぁ、事件を起こさせる原因にはなっているから、誰の手に渡ったかによっては危険物となってしまうのかもしれないが。果実を盗んだとか、そういうことでもない限り犯人などという大層なモノは出てこないはず。
「と、とにかく聞いてみようか」
「あの、」とリタが声を掛けると、その生徒は少し驚いたように振り返った。
「突然ごめんなさい、えと、少し良いですか?」
「何か……?」
「こちらには、よく来られますの?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……この前お供えしたものがなくなっててね」
言葉を途切れさせた生徒はチラリと墓を見る。そこは雪が積もっているが、何かがあるようでも埋もれているようでもない。供えられているようなものは見当たらなかった。どうやら、それはそのままどこかへ消えてしまったらしい。
どきりとして反射的にカレンを見た。カレンも同じく考えたようで、二人の目が合う。
墓に供えたままなくなったもの。それはもしや……。
「ここに、光る木の実をお供えしたんだけど……いつの間にか無くなってたのよ」
「光る、木の実……」
光る木の実と言えば、一つしかない。
(この人が、女神の果実の発見者……?)
ここに女神の果実があったというのは、確信に近い事実だった。そして今、やっと女神の果実をお墓に供えた人物を見つけることが出来た。
「あの、お供えしたのっていつくらいなんですか?」
「確か、三日前くらいだったような……誰かが持っていってしまったみたいね」
まぁ、もともと私のモノでもないのだけれど……そう言って生徒は肩を竦めた。聞くと、どうやら果実は道端で拾ったとのこと。万年、雪で覆われているこの地域に実の成る木があるとも思えず、不思議に思ったが……得体の知れない、光っている実を食べる気にはなれなかったらしい。賢い判断である。そこで、とりあえず身近にあった墓に供えてみたのだという。
その生徒によれば、昨日にはすでに見たらなくなっていたとのこと。雪で隠れているのかも、と思い直し様子を見たけれど、やはりないものはなかった。どうやら、それが墓を訪れた理由のようだ。
犯人は現場に戻るというカレンの言葉はある意味当たっていた。……犯人というか発見者だったが。
「一体、誰が持ち去ったのでしょう……」
問題はそこだ。
果実を見かけた情報はあるのに、誰がいつ持ち去ったのかは、未だ分からず。
墓の前で、三人して首を傾げる。
実は、この三人の内二人――リタとカレンはすでに女神の果実の力の片鱗を見ていたのだけれど、そのことに気付くのはまだ先のことだった。
(手がかり不足)19(終)
―――――
お墓参りって、ドラクエ世界ではお盆みたいに時期が決まってたりするんだろうか。それとも時期とかは決まってないのか……疑問。
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