天恵物語
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第九章 17-1

「あ、アル!」


目的の教室の面する廊下にて、リタとレッセはアルティナに出くわした。リタの思わず上げた声はどこか嬉しそうだが、そこがレッセにはあんまり面白くない。……仲間に遭遇したのだから、その反応が当たり前であることは分かっているのだけれど、何だか気にくわない。自分でも何が何だか良く分からない感情をもて余すレッセは、内心首をひねっていた。
ちょうど扉を開こうとしていたアルティナが振り返る。リタを見て、それからレッセを見た。
……直感であるが、なんとなく向こうも同じようなこと思っていそうだ、とレッセは感じていた。レッセを見た途端に不機嫌になったように見えたのは気のせいなのか。


(リタは何とも思わないのかな……)


……と、本人をチラリと窺うも、全く気にもかけていない様子で、無邪気にもアルティナへと駆け寄って行った。リタがあまりにも普通に、しかも笑顔で接しているせいで、全て自分の考えすぎかとも思えてきてしまう。
少し距離があるため、二人の会話は断片的にしか聞こえてこないが、傍目から見てても二人はかなり仲が良さそうに見える。いや、実際仲間なのだし仲は良くて当然か。それに、リタはレッセと違って誰とでも分け隔てなく話せるのだろうし。
アルティナは先程まで雪吹き荒ぶ窓の外のような冷たい空気を纏っていたくせに、リタと言葉を交わす今だけは幾分か冷たさが和らいでいる。人見知りする代わりに、表情から感情を探ることに慣れているレッセである。
……やはり、気のせいではないかもしれない。


(あの人、リタのこと……)


……そうだったとして、自分からしてみれば、だからどうしたという話なのだが。それでも、リタの方はどうなのだろうと気にかかった。
会話の様子を見ていても、リタはレッセと話していた時とあまり変わらないようにも思える。しかし、相手の姿を見つけた瞬間に駆け寄るほどだ。もしかしたら……。


(……って、別に、僕には関係ないことだけどさ)


そう、あの二人がどういう仲なのかなんて、レッセには関係ない。突き放すように思考を頭から追い出そうとするが、どうしても胸に残ったモヤモヤとしたものは消えなかった。



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