天恵物語
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第九章 03-1

「ここが、エルシオン学院……?」


「……ですわね」


どっしりとした佇まいのエルシオン学院は、一面雪だらけの雪原の中で更にその存在感を主張していた。学院は雪原よりも小高く盛り土されたところに建っており、階段を登りきると大きい立派な門が見えてくるが……今は来訪者を拒むようにがっちりと閉まっているのが遠目でも分かった。一部の隙もないような立派さがまた不安を誘う。


「もしかして入れなかったりとか……」


「いや、門の前に人がいるようだが」


そう言って目を細めるアルティナをリタが見上げる。ようやく顔の火照りを収まり横並びになったのだが、リタの中でユリシスの発言の謎は依然解けないままだった。しかし、いつまで経ってもそればかりを考えてもいられない。それは分かっているのだけれど、ユリシスの言っていたことが胸にもやもやとわだかまって、突っかえたまま取れないのがもどかしい。
そんな思いを抱えながらアルティナの横顔を眺めていると、さすがに視線に気付いたらしいアルティナと目が合い、ドキリとする。


「……どうした?」


「う、ううん……何でもない」


合わさった視線が何だか堪えきれなくて、誤魔化すように笑うと前を見据えた。だから、アルティナは物言いたげに口を開きかけるも結局何も言わずにいたことには気付かなかった。そして、その様子を見守るカレンの視線にも。
アルティナの言うように、門の前では誰かが何かを待つように佇んでいた。背格好からして男性だろうと思われる。雪のせいで曖昧だった風貌が、徐々に近付くにつれ露になった。――口ひげが立派な、初老の男性のようだ。白髪は老いというより貫禄を強調させた。この学院の教師だろうか。
どこか厳しい表情のその人物に、リタが声を掛けようか躊躇っていると、相手が先に口を開いた。表情に反して、穏やかで優しそうな声音だった。


「お待ちしておりました、ようこそエルシオン学院へ。私がここの学院長です」


学院長を名乗った男性は恭しく頭を下げた。つられてリタも頭を下げる。学院長の“お待ちしておりました”という部分に内心首を傾げたが、そういえばとカイリの言っていたことを思い出す。


(確か、イズミさんが話を通してくれてたんだっけ)


この学院を卒業したというカレンの父が事前に口利きしてくれた、と聞いている。どうやら学院の中にはすんなりと入れるようだ。まさか学院長が自ら出迎えに来るとは思ってなかったが、もしかしたらイズミはこの学院長と取り合ってくれたのかもしれない。――あの食えないブランス家当主なら、学院の長と繋がりがあってもおかしくはないと思えてしまう。
学院長のお出迎えをそう捉えた一行は、何の疑問もなく学院長の言葉を受け入れた。……しかし、門を開けてくれた学院長の次の一言で、両者とも大きな勘違いをしていることに気付く。


「あなた方が先日依頼した探偵の方ですな。どうぞお入りください」


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