天恵物語
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第九章 02

顔が、熱い。
頬に手を当てる。手袋をはめているため、手にまで熱は伝わってこない。けれど、外気との温度差とも相まって、顔が赤いだろうことは鏡を見なくても分かった。しばらく後ろを振り向けなさそうだ。


(じ、女王様があんなこと言うから……)


いや、ユリシスは悪くない。自分が勝手に悩んでいるだけだ。何であんなことを、と半ば八つ当たりのような気持ちが入っているのは自分でも分かっていた。リタはグビアナでユリシスに言われたことを思い出す。


「私、最初に意地悪した時から何となく気付いてたのよ。あなたは仲間思いで、だけどそれだけではない。……あの戦士のことが、好きなのでしょう?」


これは何を意味するのか。よく鈍感だとか言われるリタだが、ユリシスの言葉はほぼ直球に近かったので、それくらいなら分かる。あの戦士、というのがアルティナだということも。


(アルのことは好き、だけど……)


そうするとカレンも好き、リッカも好き、ルイーダもオリガもマキナもマウリヤも、と芋づる式に他の人達まで思い浮かんでくる。――それは何だか、ユリシスの言っているものとは違うような気がした。


(多分だけど、アルのことを特別好きなのか……ってことなんだよ、ね)


きっと、そういうことなのだと思う。
ただ、その肝心なことが分からないでいた。


(……そんなこと、考えたことなかった)


グビアナでの事件が終息し、女神の果実も手に入り、これにて一件落着した。何も思い残すことなく、後腐れもなく、グビアナを発てる。そう、思っていたのだけれど。
女王は最後に、耳元でとんでもない発言をしてくれた。リタはグビアナを離れた後もその言葉に悩まされていた。というか、今さっきアルティナに問われたことで蒸し返されたと言うべきか。それはリタがユリシスの話を振ってしまったせいであって、結局きっかけを作ってしまったのは自分なのだった。


(……あ。熱引いてきた、かな)


いきなり問われ、しかもうっかりアルティナの名前を出してしまったおかげで火照った頬は、考え込んでいるうちに、涼しいを通り越して寒い冬風のおかげで収まってきたようだ。
さすがに、ユリシスからの言葉をそっくりそのまま二人に言うわけにはいかなかった。恥ずかしすぎる。うっかり口を滑らせた結果がこの赤面である。そんな赤裸々に話せる内容ではない。
……自分だって、よく分かっていないことなのに。


(……どうして、)


なぜ、ユリシスはあんなことを言ったのだろう。
それは、今までずっと考えたことがない、あるいは考えようともしなかった感情だ。その感情の正体を、リタはまだ知らない。
“恋”なんて言葉が、リタの中に思い浮かぶことはなかった。……現時点では。









(いつかは気付くはずの、感情)
02(終)



―――――
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