天恵物語
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第八章 19

先代王ガレイウスの話を聞いたカレンとアルティナは、地下への道をたどっていた。
ガレイウスは自身の後悔――執務にかかりきりで娘を放っておいたこと――を語った。結果、女王は王が亡くなった後、更に孤独に生きることとなり、それが女王を苦しめている。生きている間になぜもっと女王を気にかけてあげられなかったのだろう、と悔やんでも悔やみきれない様子である。しかも今、娘である女王は命の危機にさらされているというのに、どうすることも出来ずただ見守るだけ。己の無力さに呆れるばかりだ。自分は娘に何もしてあげられない。何と情けない父親か、ガレイウスは自嘲した。


「女王様がひねくれた理由には納得しましたけれども……」


父親とのすれ違いを経験しているカレンは思うところがあるのだろう。


「……でも、先程の先代様は娘を心配する普通の父親そのものでしたわ」


「…………」


それに、娘をほったらかしにしたと言うが、先代が治めていた頃と今ではグビアナのでは状勢だってきっと違うだろうし、地下水路が完成する前は水不足も深刻だったと聞く。王という役目は、娘を気にかける暇もないほど大変なことだったのではないだろうか。
女王様にも、そのことを気付いて欲しいのだが、肝心の女王は仕事放棄している。分かり合えるはずがない。女王が王としての仕事をしっかりこなせば、父親の立場も少しは理解出来たのかもしれないのだが。


「……あの梯子か」


地下の最奥へと繋がる梯子にたどり着く。


「この先に、リタがいますのね」


先程、ガレイウスは、この部屋に銀髪の少女がやって来たとも言っていた。ガレイウスに道を尋ねたリタはここにたどり着き、そして地下の奥へと向かったのだろう。
アルティナに続いてカレンが梯子を降りる。と同時に、何かの崩れるような音がした。通路をふさぐ瓦礫からパラパラと石片が落ちる。まるで、大きな生物が奥で暴れているような……。
巨大化したという、女王のペットを思い出す。


「もしかして……あのトカゲですの?」


言うが早いか、二人はすぐさま駆け出した。瓦礫に埋もれていない反対側の通路へ迂回する。
そこには、探していたモノが全て揃っていた。
怯える女王と、暴れまわる巨大なトカゲのアノン。そして、扇をかまえる少女。


「リタ!」


「あっ……アル! カレンも……」


素早く抜き出した剣をリタに迫るアノンの上から振り下ろす。間一髪でアルティナの攻撃をかわしたアノンは体勢を整えるため一旦身を引いた。スレスレで何とか避けたことに安堵し、アノンは怒濤のごとく喋りだした。


「何やお前、いきなり出てきよってビックリするやろ! このイケメンな顔にキズでもついたらどないするつもりや……って、ああぁぁーーーーっ、お前はけったいな旅人その二!!」


「…………」


いろいろ突っ込みたいことはあるのだが、最早どこから言えば良いのか分からない。アルティナはリタとカレンを振り返ってみた。


「……何なんだアレは」


「…………えーっと、」


「と、トカゲが喋っ……?!」


リタもどこから説明したものか、と迷っていた。その隣でカレンはトカゲが喋ったことにショックを受けている。
アノンは構わずアルティナに向かって恨みを吐き続けた。


「 あの時はよくも雑に扱ってくれおったなこのボケナス!! 首絞まって死ぬか思うたわ!! 動物は慎重に扱えって習わんかったんかい!! お前だけは絶対に許さへんぞ……動物ギャクタイで捕まってまえド阿呆!!」


アノンは、アルティナに首のリボンをひっ掴まれて運ばれたことを根に持っていた。どうやら相当恨まれているようだが……。


「ものすごい口の悪いトカゲだな」


「貴方にだけは言われたくないと思いますわ……」


怒りの矛先を向けられた当のアルティナは何を言われても飄々と受け流した。カレンも何だか馬鹿らしくなったのか呆れ半分の視線を送る。アノンの訛り混じりの言葉は、緊張感というものを粉々にする破壊力がある気がした。


「何呑気に構えとるんや! アンタもやで、ヒトのことゴキブリか何かみたいに叫びよって! 失礼すぎるやろ!!」


怒りはカレンにも向かった。指を差されたカレンが不満げに口を尖らせ、ボソッと言い返す。


「あんな動きされたら誰だって叫びたくなりますわ……」


「何か言うたか?!」


「い、いえ何も」


さすがに聞こえたらマズイと思ったのか、カレンはさっと目を反らしてごまかした。


「全く邪魔者が次々と現れよって……わての恋路邪魔するモンはただじゃおかんからな!!」


「は?」


「恋路……?」


いきなり出てきた単語にアルティナとカレンは二人して固まる。一瞬、理解するのも遅れた――ある意味、それくらいインパクトのある単語でもあった。そんな二人の元に、サンディがひょっこり現れ説明する。


「あのトカゲ、女王サマのコト好きなんだってサ」


あぁ、そうなのか……なんて納得できるわけがない。
嫌な予感のしたアルティナは渋面を作る。


「まさか、女王をさらったのは……」


「何つーか……愛の逃避行的な?」


「えぇっ?! や、やっぱりそういうことですの?!」


サンディの答えにカレンが素っ頓狂な声を上げた。リタも最初聞いたときは困惑したものである。隣からは、アルティナのため息が聞こえてきた。


「そのために人間になったんや、邪魔するモンは片っ端から片付けたる!!」


「いえ、あの、だから私達別に邪魔するつもりじゃ……!」


「すでに充分邪魔してるくせに何言っとるんや!!」


アノンの口から炎がほとばしる。
戦いになってしまった時から何とか誤解を解こうとしているのだが、リタの言葉など聞く耳を持たなかった。
人間という言葉にも怪訝な顔をした二人も、大方の察しはついたらしい。いろいろ気になることがあるのだが、アノンは問答無用で襲いかかって来る。話し合っている場合ではなかった。


「何なんだ全く……」


ぼやきながら、アルティナは剣を構え直す。
女神の果実を食べたとはいえ、アノンに悪いところがあるとは思えない。ただ、人間になって女王に想いを伝えたかっただけだ。それでも、戦いは避けられないのだろうか。


「一旦、頭を冷やしてもらう」


「……そう、だね」


このままでは、こちらの身が危ない。
アノンの攻撃は一撃食らっただけでも相当のダメージを受ける。それくらい強力な打撃であった。 時折炎も吐くので厄介だ。
それに、フロアの隅には女王もいる。これ以上暴れられると彼女まで危険にさらされる可能性がある。


(戦わないと、)


リタは扇をきゅっと握る。
アノンの思いは無視しきれないものがある。でも、だからと言って誰かが怪我をするかもしれない事態を招くわけにはいかない。そんな危険性を看過するわけにはいかないのだ。
アノンが攻撃を仕掛ける。戦闘が再び始まった。









(合流)
19(終)



―――――
アノンちゃん……関西系の喋り方分からないので違和感バリバリかもしれない←


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