天恵物語
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第八章 07

翌朝。


「……どうしたのカレン、そんなところで」


「あっ……リタ」


アルティナの泊まる部屋の前に佇むカレンはやけにそわそわしていて、リタが呼び掛けるとギクリと振り返った。少々どころかかなり挙動不審である。


「いえあの、……昨日あんなことを言ってしまいましたから、私……」


様子を見たいが部屋に入りにくい、というわけらしい。


「どうしましょう、リタ……私ったらアルティナを励ますどころかトドメを刺すようなことを……!!」


「だ、大丈夫だよ。アルはそこまで気にしてないよ……」


気にしていない……はずだ。なかなか確信は持てないリタだったが、カレンの言葉でアルティナを説得というか立ち直らせたのは事実である。


「そうでしょうか……」


カレンはまだ不安そうに顔を曇らせている。一晩経って頭が冷えたのか、確かにあの発言は暴言に近かったけれど本人もそれは自覚していたのだった。


「えっと……あの時は、カレンがバシッと言ってくれなかったら解決しなかったと思う……だから、ありがとね、カレン」


礼を言われるとは思ってなかったカレンは、目を見張った。


「そんな……お礼を言われるほどのことではありませんわ。私、随分好き勝手なこと言ってしまいましたもの」


それに、とカレンは続ける。


「あの時は私だけではどうしようもありませんでしたし……というかそれ以前の問題として、リタがいなかったら、すぐにパーティ離散してしまう自信が山ほどありますわね」


「…………」


相変わらず仲が悪いというか相性が悪いというか。ある意味悲しい確信をカレンは持っていた。
アルティナの背中を押したというかひっ叩いたのがカレンであれば、リタはその仲立ちである。今のところ、アルティナとカレンは、その間に仲介としてリタの存在を挟むことが不可欠である。それで何とかパーティが成り立っていると言っても過言ではない、そんな不安定な関係の上に成り立っているのが現状である。というか、もともとリタによる女神の果実探しのための旅だ。リタがいなければどちらにせよこのパーティは成立しない。
しかも、成立云々以前に、リタと出会わなければアルティナは、カレンと顔を合わせることすらなかったかもしれないのだ。


「……人の部屋の前で何やってるんだお前らは」


呆れを含む声が聞こえた。と思えば、同時に目の前の扉が勝手に開いた。アルティナが開けたのだとすぐに分かったが、いきなりのことだったので二人して驚いて肩を揺らした。


「びっ……くりしましたわ! 開けるならノックくらいしてくださいます?!」


「……なんで内側からノックしないといけないんだよ」


普通逆だ。外側にいる人間がノックするものである。
部屋の前でのカレンとの会話を聞かれただろうか、と思ったけれど、アルティナはそのことについては触れてこなかった。扉一枚隔てていたので、もしかしたら聞こえなかったのかもしれない。


「アル、起きても平気なの?」


「ああ、もう治った」


完治したアルティナの顔は熱が下がったからかやけにスッキリしているように見える。もしかしたら、それは熱が下がったおかげだけではないかもしれない。


「それは何よりですわ。これからは体調を崩さないよう、よりいっそう気を付けて欲しいものですわね」


「そうだな、お前がこれ以上うるさくなるのは勘弁したいからな」


「……ちょっとアルティナ?!」


また始まった。アルティナが元気になった途端に二人のケンカは再開された。ケンカというか、最近はいがみ合いに近いけれど。


「……えっと、すっかり元通り……だね?」


良かったのか悪かったのか。いつものやり取りが復活したのだし、とりあえず良かったことにしておこう。そう思うことにしたリタであった。


「あっれー? 何か騒がしいと思って来てみれば……もう体は大丈夫なワケ?」


「あ、サンディ」


どこに行っていたのか、サンディがひょっこり三人の前に現れた。ケンカをしていた二人もサンディの登場に目を向けた。


「……おかげさまで」


「ふーん」


アルティナの体調について、大して興味なさそうであるが、一応気にはしていたらしいサンディである。


「全く、今度からちゃんと気をつけてヨ。突然倒れられたりするとコッチとしては超ビックリするんだから。……まぁでも、治って良かったんじゃん?」


これでお城いけるし、とアルティナを一瞥した後サンディは肩をすくめた。それに対してリタが一言。


「サンディ、心配したならそう言えば……もがもが」


しかし言っている途中で、リタの口はサンディによって塞がれた。


「はぁ? 何言ってんの心配なんかしてないし? むしろ予定狂うの心配してましたし?!」


普段予定なんて気にしないくせに。しかし口はサンディの手によって塞がれているので、それも言うことが出来なかった。


「ほらほら、こんなところで突っ立ってないでとっととお城行く! 一刻も早く女神の果実探すのヨー!」


「……そ、そんなこと言ったって……」


まだ朝食だって済んでいないのに。ようやく口元を開放されたリタは不満げに言った。サンディはその身一つで出掛けられるだろうが、リタ達はそうはいかない。
勢いにまかせて突っ走るサンディに急かされつつ、三人は何とか城に向かう準備を整えたのであった。









(果実捜索再開!)
07(終)




―――――
さて、ようやくお城へ行けます(^-^;


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