番外編 新年までのカウントダウン(前日)1
「そういえば……ルイーダさん達は、毎年お正月は宿屋で過ごしてたんですか?」
宿屋のお手伝いをしようとカウンターの台を拭いていた時、ふと思ったこと。自分がいる以前はどのような正月の過ごし方をしていたのであろうか。
それはリッカも気になったらしく、リタ同様にルイーダを振り返った。
グラスを磨いていたルイーダは、過去の正月に思いを馳せる。
「え? あぁ……正月はいつも宿屋でどんちゃん騒ぎだったわね〜。酒飲んでお節料理つまんでお喋りして酒飲んで酒を飲んで……って、ほとんど宴会みたいなものだったけど」
とりあえず、酒ばっかり飲んでいるのが気になった。
「……って、今年はリッカもリタもカレンもいるし、それやらないから大丈夫よ。安心してちょうだい」
「「…………」」
一瞬不安になりかけたリッカとリタであった。
「正月ってのは……まぁ、基本的には日の出を拝むものなんじゃない? 初日の出ーとか言って」
「そういうものですか」
なるほど、日の出は確か、天使界で見るものと人間界で見るものとでは全く違う風景になると聞いたことがある。
「そうそう、アルティナは毎年お正月にいなくなっちゃうのよ。初日を見に行くって……しかも一人で。全く、お正月は皆で楽しむものなのに、アイツってば」
「そうなんですか……」
はぁー、と溜息を吐くルイーダ。「最初っからああだったのよ」と愚痴ったところで気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば、ルイーダさんとアルティナって、どういう経緯で出会ったんですか?」
「私とアルティナ? あー、それがね……アイツ宿の前で行き倒れてたのよ」
「「……へ?」」
リッカとリタの声がキレイに重なった。
「ボロボロのボロ雑巾よろしく転がってたから何事かと思ったのよね〜。とりあえずこのままじゃ危ないってことで急いで宿に引きずり込んだわけよ」
『あら、目が覚めた?』
『……ここは、』
『アンタが倒れてた目の前にあった宿屋兼酒場よ。何があったかは分からないけど、随分ボロボロだったから中に運んで今に至るってわけ』
『……ほっといてくれて良かったのに』
『あ・の・ね・ぇ』
いきなりドスの聞いた声に変わったルイーダにアルティナはビクリと肩を震え上がらせた。雰囲気そのままっていうのが更に恐い。
『アンタがあんなところで行き倒れられちゃあ、元から少ないお客様が更に少なくなるのよ立派な営業妨害なのよ分かる? 分かったら謝罪すると共に感謝なさい、このすっとこどっこい』
『……それはどうもスミマセンデシタ』
勢いに押されたアルティナは、普段使うことない丁寧語などで謝罪する。なんだか敬語を使わないと取って喰われるような気がしたから、と後に感想を残している。
『片言なのが気になるけど……まぁいいわ。アンタには慰謝料としてここに居座ってもらうから!』
ルイーダはビシィッと指差し、宿に残れ宣言をした。この女性の思い切りの良さは、いっそ清々しい程スッパリサッパリしているものだった。
『……はぁ?!』
『その様子から見るに、アンタ、帰る場所無いんでしょ? 私の目はごまかせないわよ!』
実際その通りだが、何を根拠に。
そう言うと、ルイーダは嬉々としてガッツポーズを決める。
『やっぱり! じゃあ、この名簿に名前記入お願いね! 少しは顔の良い新入りでも入れば客も多くなるはず、店の存続も有り得るわ! あー、良かった』
『…………』
もしかして自分は良いように使われただけなのではなかろうか、とこの時思ったが時すでに遅し。
こうして、アルティナは酒場の名簿に名前を登録するに至ったのだった。
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