番外編 新年までのカウントダウン(二日前)2
「お正月をご存知なくて?! 新年を祝うお祭りですわよリタ!!」
「そうだよ! 鏡餅飾ったり、おせちを食べたりするめでたい日だよ?!」
「とりあえずリッカ、食べ物のことばっかりよ」
「あ、正月にお客様にお出しする献立を考えてたから……って、ルイーダさん!!」
正月とは何たるかをリタに一生懸命カレンと説明していたリッカは、いつの間にか背後にいたルイーダに気付いていなかった。
一体何事かと尋ねたルイーダに、リッカが事の成り行きを話すと、ルイーダも目を見張ってリタを見た。
「お正月を知らないのリタ?!」
「いや、あのっ……明けましておめでとうの日は知ってますけど!」
確か、天使界の書庫の本で読んだことあった。
(お正月っていうのは、新年を祝うお祭りなんだっけ……)
天使には天使の暦があるので、そこのところはややこしいが……基本的に天使界と人間界の新年は一致するらしいことは習ったことがある。
「そっかー、新年って楽しいことをいっぱいする祭なんだねー」
「ちなみにリタの故郷は……?」
「え……新年明けましたねー、あーそうだなー……って言うくらいかな?」
あまりにも温度差のありすぎる文化の違いに呆気に取られたその場の(天使を除く)全員。
新年なんてそんなもの、と思っているので別に気にもしていないリタだったが、他の者達はそうはいかなかった。
「なんて……なんて殺伐としたお正月を過ごしてたのよリタ……!!」
宿王であるリッカの父・リベルトが亡くなってたと知った時のように半歩下がって驚き戦[オノノ]いたルイーダ(オーバーリアクション)。
「いや、だからこれが私の故郷の普通っていうか……」
「こうなったら、是が非でもお正月を楽しんでもらうしか無いわ……!」
「る、ルイーダさん?!」
「名案ですねルイーダさん!」
「とっても素敵なお考えだと思いますわ、誰かは存じませんがルイーダさんと呼ばれなさるお姉様!」
「そうでしょう、そうでしょう! ということでリタ、あなたにはお正月を存分に楽しんでもらうから覚悟なさい!」
「えええぇ〜〜〜?!」
僧侶と宿屋の店主、そして酒場の女主人がタッグを組むと最強だということが分かった瞬間であった。
「てことで、その間呼び込みもよろしくね♪」
「あ、分かりました……って、むしろそっちが本命ですよねルイーダさん?!」
カレンとリッカは純粋に正月を楽しんで欲しいと思っているだけだ(と思いたい)が、ルイーダは絶対呼び込みをして欲しいがためにリタを引き留めたいと思っているに違いない。
「さあ、お正月商戦に向けて張り切って行くわよーっ!!」
(あぁ、やっぱり……)
ちらりと騒ぎを傍観していたアルティナに目を向ければ、なんだか諦めの境地な視線とぶつかった。というか目が「諦めろ」と言っていた。アルティナもルイーダには頭が上がらないのは出会った当初から薄々感じていたわけで。
(今回は少し長めの滞在になるのかな……)
お正月はともかく、その後も引き留められそうだ……。
そう思いながら、リタは深々と溜息をついた。
あと二日!(お正月でも、リッカの宿屋は絶賛営業中!)
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