第一章 12
『未練……ですか? そうだ、宿屋の裏の高台に埋めたものがあるんですが、それかもしれません。掘り出してはくれませんか?』
それが、リベルトの昇天しない理由らしかった。
「じゃあ、わたしそれ取ってきます!」
リタは茂みの中をガサガサとまさぐった。サンディには、頼んでカンテラを持ってもらっていた。面倒だと文句を垂れたがこれが無いと作業がはかどらないことは分かっているらしい。文句を言いつつも、ちゃんと手元を照らしてくれていた。
それにしても、探し物がなんなのかは分からないが……。
すると、昔に土が掘り起こされているような痕跡を見つけた。そこだけは草で覆われていなかった。
「あ、確か……掘り出すって言ってたっけ」
試しに、古ぼけた銅の剣を使って掘ってみる。使い方が間違っている、というサンディの言葉はこの際無視である。すると……
「……トロフィー?」
なんと、金ぴかのトロフィーが発掘された。
リベルトのところへトロフィーを持って行くと、リベルトの顔はたちまちにほころんだ。
「おおっ! そうです、これこそ宿王のトロフィー!」
トロフィーを見るリベルトは、なんだか懐かしそうだった。
「実はずっと封印していたんですよ、リッカのために、セントシュタインへの思いを断ち切るために……」
「リベルトさん、宿王って……宿の王様なんですか?!」
「えぇ、まぁ……そういうことになりますかね」
「すごいですっ!」
リベルトは、リタの称賛の言葉に照れたように頭を掻いた。
金ぴかのトロフィーは、存在を主張するかのようにキラキラと輝いている。
(……そうだっ)
「リベルトさん、これ少し借りていいですか?」
「いいですよ。でも何に使うのですか?」
リタはトロフィーをリベルトに少し貸してもらい、リッカの家へと入ろうとした。
(リッカに見せたらビックリするかな……?)
父親の遺品を見たら喜んでくれるだろう、そう思い戸を開こうとした、が。
「あれ……人がいない?」
リッカの祖父でさえいなかった。
(宿の方かなぁ……)
ウォルロ村に一つしかない宿へ顔を向けると、明かりが灯っているのが見えた。
(今日に限って皆あっちにいるなんて、どうかしたのかな)
不思議に思いながら宿の戸を開ける。そこにはリッカや祖父の他に、客であるルイーダの姿があった。
「わたし、セントシュタインには行きませんから!」
しかも、入ると同時にリッカの声がした。
「どうしたの、リッカ……?」
キョトンとして戸の脇に突っ立っていると、それに気付いたリッカが出迎えに来てくれた。
「おかえりなさいリタ、遅かったじゃない! ……あら、このトロフィーは?」
戸の陰にあったトロフィーを明かりに照らすと、さらにトロフィーは輝いて見えた。
「これは……宿王のトロフィー! しかもお父さんの! どうして……」
困惑するリッカに、今まで黙っていたリッカの祖父が椅子から立ち上がった。
「そのことについては、ワシから話そう」
「……おじいちゃん」
それから、祖父はリベルトのことについて語った。
リッカの父は宿王だったこと、リッカは病弱でそのためにウォルロ村に越してきたこと。宿王の称号よりもリッカが大切だったということ。
「この村に来てからも、リベルトの宿への熱意は変わらなかった……」
それは、お前もよく分かっているだろう……?
「お父さん……。わたし、小さい頃から気になってたの。お父さんの遠くを見るような視線……。お父さん、セントシュタインの宿のことを忘れられなかったのね」
しばらく下を向いて考え込んでいたリッカだったが、やがて決心したように顔を上げ前を向いた。
「何が出来るか分からないけど……。おじいちゃん、リタ、わたし……ルイーダさんの申し出を引き受けてみるよ!」
ついにリッカが決心をし、祖父はそれが良いと後押ししてくれた。
『まさかリッカが私の夢を継いでくれるなんて、あの子も大きくなったものです。もう思い残すことはありません……』
リベルトの体が淡い光を放ち始めた。
『あぁ、どうやらお別れのようですね。ありがとうございます、ウォルロ村の守護天使様……』
リベルトは穏やかに笑い、そしてスッと消えて行った。
次の日、リッカはセントシュタインへと旅立つこととなった。
(リベルトさん……どうか安らかに眠って下さい)11(終)
―――――
最初のうち、多分リタは話に着いていけてなかったと思う。
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