第七章 08-1
一方その頃、カレンはというと。
「いかにもわたくし、マキナ様の執事を勤めていた者でございます」
マキナに屋敷から追い出されたという者達の働く宿屋にいた。
マキナが変わってしまった理由と、どうしたら機嫌を直してくれるか、ということを探ろうと元屋敷の使用人達を訪ねたわけである。
この宿屋のオーナーらしき人が元々執事をやっていた人物らしい。
「お屋敷からお暇をいただいたのは、わたくしの他に四人。メイドとコック、舟番、そして乳母でございます」
「その方達は、皆こちらにいらっしゃいますの?」
「メイドとコックはいますが、乳母は自宅に。舟番は船着き場にいるのではないかと思うのですが……」
舟番と乳母は、かなりの高齢だ。さすがに宿屋で働くことはしなかったか。
「なぜ追い出されてしまったのかは……」
「すみませんが、わたくしにも分からないのです。突然追い出されてしまいまして……」
仕方ないが、これは他の従業員に聞くしかなさそうだ。
執事にお礼を言って、宿の中を歩き回る。さすが観光業が盛んなだけあってか、サンマロウの宿はどこのものよりも豪華だ。というのは、サンマロウを出てから――つまり、出家してから知った。あのまま家を出ずにいたら、今も知らないままだったであろう。
そして、リタやアルティナに会うこともなく。ただ貴族としての優雅な生活を送って、それで。
(……きっと、ロクな人間になってませんわね……)
出家をするきっかけになったのは結婚である。今となっては、そのきっかけを作った父には逆に感謝したいくらいだ。貴族の結婚なんて親が決めるのが当たり前みたいなところがあるのだから、結婚が嫌で出家するなんていう裕福なお嬢さんは、自分くらいのものではなかろうか。
なので、そのことに関しては別に怒ってはいない。その時は少し腹が立ったが、今は気にもしていない。実際、結婚はしなかったことであるし。兄達はそのことでカレンが怒っているのだと思っているらしいが、それは違う。
まぁ、確かに結婚がきっかけで怒ったような部分はあるけれど。
「……それよりも今は聞き込みですわ」
ちょうど、メイドが向こうからやってくるところだった。
「あの、少しお時間よろしいかしら」
「はい……?」
「マキナさんのお屋敷で働いていた方ですよね?」
「ええ、そうですが……」
どうしてそんなことを聞くのかと、メイドは不思議そうな顔をしている。
「なぜ、追い出されてしまったのか聞きたいのです」
「追い出された理由、ですか?」
そのことについてはメイドもよく分からないのか、しきりに首を傾げながらであるが答えてくれた。
「ええと……確か、私がマキナ様のおぐしをとかしていた時でした。まるでお人形のようにかわいらしいですね、と言ったら……マキナ様は急に怒り出してしまわれて」
そして追い出された、と。
褒めただけなのに。どこに怒るポイントがあったのだろうか。「お人形のようにかわいらしいですね」……この手の誉め言葉はよく使われるし、これと言ってまずいことは言ってないように思えるのだが。
「……分かりませんわね」
どうやら、もっと他の人に聞くしかなさそうだ。
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