第七章 06
「そういうわけで、いってらっしゃいませお兄様方」
と、カレンは(無理矢理)兄達をマキナの屋敷に追いやったところで「さて、」とリタ達に向き直った。
「これでひとまずマキナさんのことは一段落ですわね。あとは彼女の出方を伺いましょう」
「そ、うだね……」
何とも歯切れの悪い相づちを打つリタと、ため息をつくアルティナ。
「なるほど。お前がそういう性格なのは、あの二人のせいということか」
“そういう性格”。……言わんとしていることは分からないでもない。
きっと、兄に甘やかされて育ったに違いない。親はどうかは分からないけれど、兄――特にリヒト――の溺愛ぶりは普通ではなかった。
「何だかムカつきますわね、その言い方。……まぁ、否定はしませんけれど」
自覚はあった。そのおかげで、ただの傲慢高飛車なお嬢様、という典型的な貴族の令嬢にはならなかったわけだ。
そういえばマキナも普通の令嬢とはまた違う、かけ離れた存在であった。変わり者……ならまだかわいい方である。変人とはまた違う気もする。
何と言うか、浮き世場離れしている感じに加え、あの張り付けたような笑顔は、彼女に人間らしさを感じさせないのだ。
「そうだ。私の兄がマキナさんを説得してる間にアルティナ、あなた剣を買いに行っては?」
「あ、そっか。アル、サンマロウで買うって言ってたもんね」
先の一件で、アルティナの剣は使い物にならなくなっていた。カラコタに戻ろうかと提案したのだが、アルティナは手間がかかるとの理由でサンマロウで剣を買うことにした。それに、カラコタよりサンマロウの方が品揃えは良いらしい。――だからと言って、それらが使えるモノかと言われたらアルティナにとっては別らしいが。
曰く、
「剣に機能性は求めてない。たたっ切るためのモノが火なんぞ吹いてどうする」
……だとか。なかなかワイルドな見解を持っていらっしゃる。
「そうですわね、それではリタとアルティナで行ってらっしゃいませ。私は寄るところがあるので少しばかり失礼しますわ」
「え、ちょっ……カレン?!」
やけににっこりとした笑顔で――そこはかとなく、先ほど兄達に向けられた何かを含む笑みに似てる気がする――カレンは「そこが武器屋ですわ」と告げて颯爽と去っていった。
「行っちゃった……」
「……あいつ、ここに来てから更に強引になってないか?」
リタとアルティナは、半ば呆然と立ち去るカレンを見送った。
そして、二人同時に顔を見合わせる。
「えーっと……とりあえず見に行く?」
武器屋を指してリタが首を傾げる。
「……そうだな」
なんとなくカレンの意図を察したアルティナは、渋い顔をしてもう一度カレンを振り返った。
(一体どういうつもりなんだか、)06(終)
―――――
何やらカレン節が炸裂してるようで←
[ back ]