第七章 05
とりあえず、カレンの兄達がかなりクセのある人物であるということは分かった。
どちらも妹想いの良い兄……ではあるが、それを言うにははばかられるナニかがあるのも事実である。
「シスコンとは酷いなぁ。私はただ、たった一人のかわいい妹を案じて身を焦がしているだけだよ」
それを世間一般ではシスコンという。
「名前をまだ言っていなかったね。私はカレンの兄でリヒト・ブランス。えーと……リタさんとアルティナ君でいいのかな?」
カレンさえ関わらなければ、リヒトは至って真面目で優しそうな青年だった。容姿やただ住まいのせいか、ルーフィンのような学者を彷彿とさせる。
「あ、はい。はじめまして……」
「リタさんと言うのですね……!」
カレンの制裁を逃れたもう一人の兄は、またも素早くリタに近づいてきた。
「可憐でまさにあなたにピッタリな名前だ! あ、俺はカイリです。以後お見知り置きを」
「はぁ……」
さすがのリタも苦笑気味である。懲りない兄に憮然としたカレンであったが、背後のアルティナは、更に渋面だった。
「お前の兄はいつもこんななのか」
「残念ながら、昔から何も変わっていませんわね……」
苦悩に頭を押さえる。そう、昔からこの兄達は“こんな”だった。リヒトは度を過ぎる過保護、カイリはどうしようもない女たらし。
ため息をつくカレンであるが、自分も相当に変わり者だという自覚はない。ある意味似た者兄妹であったりする。
「カレン、せっかく帰ってきたんだから、父さんにも……」
「お父様に会うつもりはありませんわよ」
リヒトの言葉を遮るように宣言し、そっぽを向くカレン。カイリが隣で肩をすくめる。こうなることは分かっていたようだ。
「そんなこと言うなよカレン。親父ってば普段はあんなだけど、結構凹んでんだぞアレで」
やり取りを聞いていたリタは、まだ見ぬカレンの父に思いを馳せた。カイリの口ぶりからすると……
(カレン達のお父さんって、どんな人なんだろ。すっごく厳しい人とか?)
この兄妹の親なのだから、父もきっと変わり者であるに違いない。
そう考えているうちにも、カレンへの説得は続いているようだった。
「一回顔見せるだけでもいいからさ、カレン……」
尚も食い下がるのを見て、カレンは一瞬迷うような顔を見せた。やはり、自分の父親のことは気になるようだ。そして決意したように兄達の方を向く。
「……仕方ありませんわね。会いに行きますわよ」
「「本当?!」」
兄二人の声がきれいに揃った。その顔に喜色を浮かべる。
「ただし、条件があります」
「条件……?」
「ええ。……マキナさんのご機嫌を直せますかしら、お兄様?」
にっこりと、サンマロウに戻ってきてから初めて笑顔を兄に向けたカレンであったが、兄達は対照的に顔をひきつらせた。
「カレン……マキナというのは、あのお屋敷のマキナ嬢のことかな?」
「当然ですわ」
「勘弁してくれよ……」
兄の反応を見るに、この変わり者二人ですらマキナの機嫌を直すのは難しいらしい。恐るべしマキナ嬢。
「機嫌を直してくださったあかつきには、ちゃーんとお父様に会うということをお約束いたしますわ」
そう言われてしまえば、後はもうやるしかない兄達である。
「なりふり構わずだなオイ……」
「何とでもおっしゃいなさいな」
アルティナのぼやきは、しっかりとカレンにも届いたらしい。それでも腹を立てるでもなく平然と言ってのけた。
使えるものは使う。
「カレン……お前、そういうとこは本当に親父に似てるよ」
しかし……次に聞こえてきたカイリの、やけにしみじみとした呟きには我慢ならなかったらしい。
「あの人と似てるなんて心外ですわーー!!」
……という、絶叫に近い大声がサンマロウに響き渡ったのだとか。
(変わり者、ブランス家の謎)05(終)
―――――
名門貴族です一応←
[ back ]