第四章 03
「おや、あなたは先ほどの……」
軽くダーマ神殿を一周した辺りで、神官を発見したリタ達だった。が、見つけた場所が初めて会った場所と同じだったのを見て、サンディが「無駄骨だったじゃん!」と騒いだけれど、神官を前にしてまさかサンディを宥められるわけがなく――神官からしてみれば、何もないところに話しかけている少女としか見えず、リタが変人扱いされてしまう――、仕方なく無視を決め込んだ。サンディも、特に何らかのアクションを求めていたワケではないようで、リタに絡んでくることはなかった。
神官に事実のことをある程度伏せるようにして――嘘が下手なリタがどこまでごまかせたかはご察しであるが――説明すると、神官は何やら考え込むようにあごに手を当てた。
「大神官様が出ていったのは光る果実を食べたせいなのですか……。その果実には秘められたチカラがある、と。そうなると……むむっ、そうかダーマの塔か!」
突然の思い付きと聞き慣れない言葉にリタはサンディともども首を傾げた。
「ダーマの塔?」
「そこはかつて転職の儀式が行われていたと言われる塔ですが、今は魔物の巣になっているのです。そんな危険な場所へ大神官様が一人で行くなど考えもしませんでしたが……光る果実によってチカラを得たというのであればダーマの塔へ向かったとしか考えられません」
「はぁ……」
そういうものだろうか? その道を志してはいないリタとしては、あまり釈然としないのだが、大神官の補佐らしい神官が言うのならそうなのかもしれない。
「旅の方! どうか大神官様を連れ戻してはいただけませんか? 我々では、あの塔に潜む魔物には太刀打ち出来ないのです。お願いします!」
「まぁ、そのつもりでしたけど……」
なぜそのような重要な塔に魔物が棲みついているのだろう……。
「おおっ、やっていただけますか! ありがたい!」
半ばせっかちに礼を言いきった神官に、「ちょっとこのオッサン強引すぎない?」とサンディが文句を言ったが、“強引”には慣れつつあるリタであった……主にルイーダによって。
「実はダーマの塔に入るためにはある作法が必要なのです。扉の前に立ち、キチンとしたお辞儀でないといけないのですが……そうだ、案内役も兼ねて一人僧侶をつけましょう。そこのキミ!」
「はい?」
ビシッと指を差されたのは、ちょうどそこに通り掛かった女僧侶だった。
「この方をダーマの塔にお連れするんだ。そして共に大神官様を連れ戻してきなさい」
「はい?」
突然呼び止められた僧侶は一瞬状況が飲み込めず思考停止したように固まったが、やがて理解したのか猛反発をし始めた。
――というか、人選が適当すぎやしないだろうか?
と、ジト目で神官を見ていたのはサンディだけで、リタは違うことに驚いていたため、他に気を回す余裕が無かった。
「どうして私が……適任の方なら他にたくさんいらっしゃるじゃありませ、……?」
リタが呆気に取られていたところ、相手もリタに気付きお互いまじまじと顔を向き合わせた。
クセのある金髪の巻き毛、パッチリとした飴色の瞳、きわめつけの職業が僧侶……間違いない。
「カレンさん?!」
「リタさん?!」
呆気に取られるのも当然である。
目の前にいたのは、ベクセリアで協力して病魔を倒した顔見知りだったのだから。
(お嬢様僧侶、再び)03(終)
―――――
今回(ダーマ編)はカレン嬢との二人旅〜。
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