第五章 11
村を出て、襲い掛かってくるモンスターを倒しつつ、道なりに進んできたリタ達の前に現れたのは大きな洞窟だった。
「オリガさんと村長さん、ここに入ってったのかな?」
「他に道はありませんでしたから、そうだと思うのですけれど……」
村長の息子であるトトによって、やはりオリガと村長が行動を共にしているということが分かった。
家の裏から出て行ったのなら、きっと向かった場所は村長が所有するプライベートビーチだ。
「ったく、やっぱり村長が誘拐したんじゃねーか。何やってんだ村長」
「まだそうとは決まってませんわよ。一応、オリガさんを無理矢理連れていったのかも分かりませんし」
トトの口ぶりからすると、強引に連れ去った感があるのだが……。
「えーと……強いて言うなら強制連行、とか?」
「それを誘拐っていうんだろ」
「……そだね」
いつもながら、アルティナは容赦無かった。
「とにかく、洞窟に入ろっか」
一歩足を踏み入れると、空気はひんやりとして、磯の匂いが一層濃くなった。
奥へ進むと――辺りは、洞窟の中に海が広がっているかのような光景だった。等間隔に転々と飛び石が散らばっている。洞窟の中は、なぜか明るい。
「この石、道みたいに広がってますわ……」
もしかしたら、村長とオリガがここを通ったかもしれない。
「それにしても、かなり入り組んだ場所だよね。迷子になりそう……」
飛び石を渡った対岸は、階段があったり他の部屋に繋がっているらしい洞穴がある。
「適当に奥進めばどっかに出んだろ」
「……だから迷子になるんだよ、アル……」
アルティナの適当精神は、彼の方向音痴の根源のような気がしたリタであった。
黒騎士事件の時も、それを存分に発揮してくれたものである――本人いわく、「知ってる場所なら迷わない」らしい――。
その事実を知らないカレンは、「もしかして……」とアルティナを意外そうな目で見ながら、ひそひそ話をするかのようにリタに顔を近付けた。
「アルティナは方向音痴だったりするのかしら?」
「うん、それはもう筋金入りのね……」
「まぁ、」と口元に手を当てたカレンだが、顔は思いっ切り笑っている。どんなやり取りがあったかくらい予想ついていたアルティナは、それを横目で軽く睨む。
……そろそろ喧嘩が勃発しそうな雰囲気になってきた。
オリガ宅でちょっとした和解があったみたいだが、かと言って、すぐに打ち解けられるというわけではないらしい。
「そういえば、村長さんの目的って何なんだろう?」
「やはり、お恵みの魚を独り占めするつもりなのでは? 村のおじいさんがそう言ってましたわ」
「それって、村の人にとっては結構な死活問題だよね……」
ぬしさまが恵んでくれる魚に依存している現状は改善されるかもしれないが、逆に最悪の事態を招くことになるかもしれない。
例えば……
「こんなことが村に知れたら一揆どころじゃ済まないだろうな、今の村の奴らの様子を見ると。米騒動程度の騒ぎで収まればまだマシな方だ」
と、アルティナの言ったようなことなどである。
絶対無いだろうと否定出来ないのが悲しいところ。穏便にことが進むことを願うばかりだ。
「もしもそうなったら、何とかしたいけど……て、」
リタ達の目の前には、高い壁がそびえ立っていた。
……すなわち、行き止まりにたどり着いたのだ。
「……あら?」
「……よし、一回戻ろうか二人とも」
「早速かよ」
その後も、何度か行き止まりに行き着き、迷子になりかけた一行。
幸先が不安になった、旅人達だった……。
(これ……本当にプライベートビーチに繋がってるの?)11(終)
―――――
最初のうちはなかなか迷った洞窟でした……。
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