第五章 10
外に出ると、村人総出でオリガの大捜索が繰り広げられていた。昨日の静けさから一転、随分と慌ただしいものである。
「これは何て言うか……」
「異様さ満点の光景だな」
二の句を継げないリタの変わりに、アルティナが言を続けた。
生活がかかっているので仕方が無いのかもしれないが、オリガを捜す村人の顔は、心配というより鬼気迫ったものがある。
「おい、アンタ達もオリガを探すだよ! あの子がいなくちゃ、オラ達飢え死にしちまうだ!」
「そんなこと……百も承知ですわ! それよりも、あとは何処を捜していないのか教えてくださりませんこと?!」
「か、カレン……」
イライラが最高潮に達したのか……カレンはリタ達に突っ掛かってきた老人の襟首を掴み、こちらも鬼気迫る勢いで問いただした。
老人は「村長のプライベートビーチが、まだ……」と目を白黒させながら答えた。すると、ようやくカレンはパッと手を離し、老人を解放した。フラフラと、オリガ捜索に戻った老人を見て、カレンは呆れで溜息が漏れ出る。
「全く、“飢え死にする”だの“生活出来なくなる”だの……。この村には、純粋に心配でオリガさんを見つけだそうという気持ちの方はいないのかしら?」
どうやら、リタ達が眠っていた間に老人に言われたようなことを何回も聞かされていたらしい。溜まっていたイライラは、今回掴みかかることによって少し解消したみたいだが……あまり褒められたことではない。
まぁ、そんなことよりも今はオリガの捜索である。
「村長さんのプライベートビーチ……?」
「んな大層なモノ持ってるのかよ村長」
聞いたことが無いのだが、そんな場所があるのか。と、その時プライベートビーチと聞いて立ち止まる村の青年がいた。
「君達……プライベートビーチに行くつもりかい?」
「え? えぇ、そのつもりなのですが……ただ、そのビーチがどこにあるのか分からず困ってますの」
「そうか……プライベートビーチってのは、村長様の自分だけの秘密の釣り場らしいんだ。しかも家の裏から通じてるらしいが……誰にも見せてくれたことないんだよ」
ケチだよなぁ……とぼやきながら青年は肩を竦めて去って行った。
「家の裏……て言ったね、あの方」
「ええ、これは行くしかありませんわ」
何より“村長以外誰も知らない”というところが限りなく怪しい。
「村長の家って……どれですの」
「あ、私行ったことあるから……えーと、こっちだよ」
記憶を頼りに村長の家へと足を進めると、奥にそれと思しき家が現れた。
昨日オリガと一緒に来た時は暗がりでよく見えなかったけれど、なかなか立派な家である。屋敷と言ったら言い過ぎになるが、村の民家より一回りほど大きい。
その裏にプライベートビーチなるものに続く道があるはずだが……。
「あれ、あの子……」
木で出来た無骨な村の門に、男の子が立っている。心配そうに門を……というより、その奥を見つめていた。
「リタ、あの子をご存知ですの?」
「うん、村長さんの息子」
「息子なんていたのか……」
リタ達に気付くと、少年は慌てて駆け寄ってきた。
「ねぇ、昨日オリガと一緒にウチに来た人だよね!」
「う……うん」
村長の息子――トトとは直接喋っていないものの、昨日オリガと共に来た旅人を覚えていたらしい。
「あのね、オリガがウチに来て、やっぱりもうぬしさまを呼びたくないって言ったんだ。そしたらパパ、すごい怖いカオしてオリガをこの先の岩場に連れてっちゃって……」
たまたま通りかかった旅人に、これ以上迷惑かけまいと思ってのオリガの行動、そして判断だった。それは実にオリガらしいて思ったが、事態は悪い方向へと進んで行ってしまったのである。
「オリガさん……」
「ねぇ……ぼく、なんだかすごく嫌な予感がするんだ。お願い、オリガとパパを追いかけて!」
(嫌な予感ほど当たらないものは無い)10(終)
―――――
おじいさんとかはナマりまくりだけど、村の若者はそうでもないんですねツォの浜……。村長まで共通語っぽいし。
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