第五章 07
リタとオリガが村長宅へと家を出て行き、こぢんまりとしたオリガ宅では。
例の二人が取り残され、何とも言えない、微妙な空気が漂っていた。
((居心地悪……))
それが取り残された二人の感想であった。
リタという緩衝材が無くなるだけで、ここまで殺伐とした雰囲気になるものなのか……と二人は改めてリタの必要性を噛み締めた時間にもなった。
「……貴方のせいですわよ」
「いやむしろお前のせいだろ……って早速アイツの言い付け破る気かよ」
言い付けとは、“二人仲良く(←ここポイント)留守番をしていること”である。
「そういうつもりじゃありませんけど……私は、貴方がどんなに付き合い下手で無口で無愛想で喧嘩っ早くても、別にどうでもよろしいですけど」
「さっき言ったことより増えてるし。つか、やっぱり喧嘩売ってるだろお前!」
しかし、カレンはそんな言葉が聞こえてるのか聞こえていないのか……部屋の隅で膝を抱え、うなだれた。
いつもと様子の違うカレンに心配というより違和感を感じて、アルティナは怪訝そうに眉を潜めた。
「おい、どうした……?」
声を掛けても、うんともすんとも言わない。放っておこうかと思ったその時、カレンはポツリと一言呟いた。
「私、リタに嫌われてしまったかしら……?」
「はあ?」
何言い出すんだ、このお嬢様は。
そんな思いが声に出てしまったわけだが……カレンが何を言いたいのか、何を思っているのか良く分からなかった。
「だって、リタをあんなに怒らせてしまったんですもの……」
「怒ったイコール嫌いになる……は、いくらなんでも短絡すぎだろ。それとも、人に嫌われるのが怖いか」
「そうではありませんわ! 例えば、貴方に嫌われていたとしても私には関係ないし、別に痛くも痒くもありませんもの!」
「…………まぁ、それは俺も同じだが」
口を開けば、いつでも神経を逆なでしてくれる小憎らしいお嬢様である。
(……もう、コイツの言うことをいちいち真に受けるのはやめよう。そうしよう)
目の前の人物との付き合い上、新たにそう決意したアルティナであった。これが後々、この二人の関係を(少々)良好にさせることとなる。
「アイツはお前のこと嫌いになったりしねぇよ」
「で、でも……」
尚も食い下がるカレンに、「お前なぁ、」と軽く溜息をこぼしつつ、
「だいたい、こんな些細なことで、人を好きになったり嫌いになったり出来るかよ。お前、リタが夜中に、残った晩飯のつまみ食いしたら嫌いになるのか?」
などと、おかしな例え話を持ち出した。
「いえ、嫌いにはなりませんけど……。何ですの、その例えは」
「例えは例えだ。ちなみにリタはお前よりかなり寛大に出来てるから、お前を嫌うとか有り得ない」
「いちいちムカつく男ですわね、貴方は」
ふて腐れたカレンは、もうしょんぼりと肩を落としてはいなかった。アルティナの言葉を信じることにしたらしい。
「よくもそこまで言い切れるものですわよ。まぁ、アルティナはリタにベタ惚れですものね〜」
「……お前の方がなかなかにムカつく奴だと思うぞ俺は」
リタとオリガが帰ってきた時、喧嘩もせずただ静かに自分達の帰りを待っていた二人を見て、リタはかなり驚いたのだとか。
(本当に喧嘩しなかったんだね!!)07(終)
―――――
カレンとアルティナの関係が少しだけ改善された模様です。
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