リナリア



安室さんが作ってくれたはちみつレモン水のお陰で、次の日は二日酔いも無くスッキリ起きられた。

今日は約束してた通り、安室さんと一緒に飲む日!


「わーっ!凄い沢山!」

「ええ。ネットに載っていた通り、ウイスキーの品揃えが豊富ですね。」


今はお酒を買いに、ネットで調べた大型のスーパーへ買い物に来た。
棚いっぱいに並ぶ大小様々な瓶。ラベルもカッコいい物からお洒落な感じまで色々ある。



「この中から選ぶのって、ちょっと大変そうですね。」


「僕のオススメを何本かと、名前さんが飲んでみたいものを買いましょうか。」


「でも私、ウイスキーの事って本当に何もわからなくて…」


「大丈夫です。ラベルや瓶が可愛いとか、書いてある文字が気になったとか…軽い感じで選んで構いませんよ。」



あ、それなら簡単そう。銘柄とか種類が全然わからない私にも出来る。

安室さんと少し離れて、ウイスキーの棚の端から端へゆっくり歩く。途中で1本の瓶が目に止まった。

黒のラベルに、白と赤の文字が印刷されている。

…カッコいい。よしっ!これにする!


瓶が割れないように棚からそっと取り出して、腕に抱えながら安室さんがいる場所へ引き返した。


「安室さん!私、これが良いです!」


「名前さん、決まりま…………、」


私が抱えていた瓶を見て、安室さんは少しだけ顔を歪めた。いつもにこにこしている安室さんがこんな表情するなんて珍しい。


「…安室さん?」


「すいません、ちょっと考え事を。名前さんは…そのウイスキーが良いんですか?」


「はい!黒のラベルに白と赤の文字がカッコよくて。えっと…ライ、ウイスキー?」


ラベルの正面には、"RAY"と大きく書かれている。その大きな文字にも惹かれた。


「名前さん。」


「なんでしょう?」


「これ、ちょっとアルコール度数が高いので他のにしましょうか。僕が元あった所に戻して来ます。何処にありました?」


「えっ!?戻しちゃうんですか!?」


安室さんは私の腕の中からウイスキーの瓶を引っこ抜いた。
私が選んだ記念すべき1本目のウイスキーなのに…!!!


「名前さんがせっかく選んだ物なのにすいません。実は僕、ライウイスキーだけは嫌いなんです。」


ニコニコ笑顔なのに、瓶を握る手が妙に力強くて何だか怖い。

というか割れる…!!
そんなに力込めたら割れちゃう!!!


「安室さんが嫌いなら仕方ないです!違うの選んできます!!」

「ええ。そうして貰えると助かります。」

「その瓶、私が戻して来ますね!」


これ以上安室さんが瓶に力をいれないようにと、安室さんから瓶を奪い返そうと思ったのに。ヒョイと瓶を高く上げられて、それは叶わなかった。


「重いし割れたら大変なので、名前さんは触っちゃダメですよ。むしろ二度と触って欲しくありません。」


二度と触って欲しく無いって…そんなに私って危なっかしい?
でも今は私よりも、安室さんが持っているほうが割れちゃいそう。


「大丈夫ですよ!さっきも持って来ましたし!」

「ダメです。」

「………はい。」


有無を言わさぬ安室さんの笑顔。…何だろう。背後に黒い物が見える気がする…。









「…あ、じゃあこれはどうですか?ラベルのトナカイが可愛いです。」


次に目に止まったのは、ゴールドのトナカイが目を惹く、グリーンの瓶のウイスキー。


「スコッチウイスキーですね。それなら僕も大好きなのでOKです。
その銘柄は青リンゴや梨のような爽やかな香りですよ。」


1本目で失敗しちゃったから、ドキドキしながら聞いてみたけど…安室さんも好きなウイスキーで良かった。

さっきのライウイスキーとと同じよう、割れないように棚からゆっくりと取り出す。
籠の中には既に1本ウイスキーが入っていたので、その隣にグリーンの瓶を並べた。



「安室さんが持ってるのは?」


「バーボン、ですよ。」


「バーボン?」


「ええ。昨日言っていた僕のオススメのウイスキーです。どちらにしようか悩んでまして。」



安室さんは眉間に皺を寄せて、両手に持つ瓶を真剣に見比べてる。
右手に持っている瓶は、赤い蜜蝋がキャップを覆っているもの。ラベルにちょこんとデザインされた星が可愛い。
左手に持っている瓶には、ラベルの中央に真っ赤な薔薇が4つ描かれている。



「どっちも買えば良いんじゃないですか?
私、安室さんのオススメなら全部飲んでみたいです。」


「僕と名前さん2人だけなのに、ウイスキー4本は流石に多い気がしまして…。」

「飲めちゃうかもしれないじゃないですか!
それにもし飲みきれなくも、また別の日に飲めば良いんですよ!買っちゃいましょ!」


邪魔されないように安室さんから素早くボトルを取り上げて、籠の中へ入れていく。
確かに4本は多い。でも、せっかく安室さんがオススメしてくれるんだもん。全部試してみたい。


「わかりました。その代わり、口に合わなかったらすぐに言うこと。
アルコール度数もそれなりにあるので、無理して飲むのは禁止ですよ。」


「はーい!でも、このバーボンって甘いお酒なんですよね?
私、甘いの大好きだから…口に合わないどころかバーボンの虜になっちゃうかも!
私だけでこの2本全部空けちゃっても文句言わないで下さいね!」


私がそう言えば、安室さんはちょっとだけ驚いた顔をする。


「………虜になってくれれば、僕は…。」


「…?安室さん、何か言いました?」


「いえ、なんでも。
お酒が決まった事ですし…次はおつまみ用の食材を選びに行きましょうか。」


お酒のツマミは何が好きですか?と安室さんに聞かれたので、もつ煮が好きですと答えたら「渋いですね」とクスクス笑われた。






いっそ それならどこまでも
(実は、籠の中のもう1本もバーボンなんですよ)
(……安室さんはバーボン激推し)




[ 20/26 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]