さあらは、さっきからずっと作戦室においてあるカニ時計を何度も、何度も確認していた。

今日はオフなのだが、誰が言うまでもなく太刀川隊作戦室には自然とメンバーが集まる。
今日も勿論、太刀川も国近も、出水もさあらも、そして唯我もちゃんと来ていた。
何をするわけでもなく、それぞれがスマホを覗いていたり机やソファーに無造作に置かれた雑誌を大して興味もないけれどペラペラとめくっていたり、またはテレビゲームに興じたり。
会話もなくても居心地が悪くない、仲の良さがなせる技。

そんな中でさあらはテレビゲームをしている国近と出水の後ろでクッションを抱え込みぼーっとしながら、チラチラと何度も何度も時計に視線を飛ばす。

「さあら先輩さっきからどうしたんです?」
「え、なにが?」
「時計を随分気にしてるみたいなので!」

唯我に気付かれてしまって、そう聞かれてしまえば隣で雑誌をめくっていた太刀川の視線もさあらに向けられて。ごまかすにもごまかせなず、さあらはふにゃりと顔を歪めた。

「んー……、もうすぐとうやのね。初めてのランク戦なの」
「え」

小さな声でそうつぶやくと、唯我と太刀川は勿論。ゲーム中だった国近や出水も手を止めてさあらを振り向いた。

「おいおい、それ早く言えよ!さあら!」
「行かなきゃ!もう始まっちゃうよー!」
「や、でもそんな見に行くほどのことでも……」
「バカ。とうやだって見に来てほしいに決まってんだろ」
「そうかな……」
「そうですよ!僕が同じ立場なら見に来てほしいです!」

結局、さあらは両腕を出水と太刀川に引かれて立ち上がり、国近がおそろいの太刀川隊パーカーをさあらの肩にかけ、背中を唯我に押され作戦室を急ぎ足で出ることになった。



『本日の解説は、私武富桜子です!』

5人がランク戦室に駆け込むと、ちょうど解説が始まったところだった。
下位のランク戦ということもあり、観戦者の人数はさほど多くない。
それでも同じく下位のB級の者たちや、まだC級の隊服を来た者もそれなりにおり、駆け込んできた5人の姿に小さくざわめきが起こっていた。

『おっと!今日はどうやらA級1位、太刀川隊の方々が観戦されるようですね!』

そして、そのざわめきに目聡く気がついたらしい武富の実況が加えられ、更に視線が5人に集まり、唯我は居心地が悪そうに体を一瞬震わせた。
が、残りの四人は平気な顔で実況席の近くに空いた席を見つけて腰をおろした。

「間に合って良かったねー」
「おー」
「で、とうやは?」
「須賀隊ってとこに入ったみたい」
「へぇ」

すがたい、と隊名を口の中で転がしながら出水がモニターに目をやると丁度その須賀隊とやらが映る。アタッカーが一人、ガンナーが一人、そしてスナイパーが一人のようだ。

「自分の初めてのランク戦より、緊張してる……」

出水の横でさあらは表情を固くしており、その手は強く握りしめられていた。
しょうがねぇな、と出水はそのさあらの手に自分のそれを重ねる。

「手痛くなるから、握んなら俺の手な」
「……ごめんね」
「いいって」
「うん」
「つーかとうやなら大丈夫だって。勝てる勝てる」

正式に師匠と弟子になったわけではないが、なにせとうやはさあらの口利きでナンバー・ワン弧月使い太刀川に何度も訓練を受けているのだ。
B級下位であればその力を発揮できれば負けるはずはない。
それに今回負けたとしても、実戦で学ぶことはとても多いのだから。

「とうやが、攻撃されるとこ見るの、こわい」

ぼそりと呟いたさあらに、出水はそっと自分の方へさあらの頭を引き寄せた。

「心配性」
「だって……」
「信じてやれよ、お前の弟だぞ」
「うん」
「撃たれて、切られて、何度も何度もそれを繰り返して強くなってきただろ。俺たちも」
「そう、だよね」
「ちゃんと見届けてやんのが姉の役目じゃねーの」
「うん……うん」

繋いだ手に一瞬だけぎゅうと力が込められて、その力が緩んだ頃には、さあらは覚悟を決めたように顔を上げた。その強い横顔に、出水は何度も、今まで何度となく惚れ直してきたのだ。出水が大好きなさあらの表情がそこにはあった。

弟くんはじめてのらんくせん


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