「おい、とうや。そろそろ起きろってよ」
ガチャっとドアが突然開けられて、顔を覗かせたのは公平さん。
姉ちゃんの彼氏だ。
「なんだ起きてんじゃん」
「……なんかすごい早く目、覚めちゃって」
「緊張してんのか」
正直に、寝れなかったことを告白したら、くくっと楽しそうな顔になった公平さん。
意地悪な笑顔だけど、やっぱこの人かっこいいよなぁと思うと悔しくもなれない。
「そりゃ、緊張するよ……」
「気楽にいけ、気楽に」
「えぇ……」
ほら、飯できてんぞ。と肩を叩かれて、公平さんと部屋を出る。
はぁと吐き出したため息は、気を引き締めるためのもの。
「おはよ、姉ちゃん」
「おはよ。ごはんたべて。公平はなにのむ?」
「コーヒー」
「みるくたっぷり、砂糖控えめ」
「それ」
当たり前のように朝ごはんに、公平さんが普通にいるのは、我が家の常識。
防衛任務で遅くなったりすると、俺が知らない間に来てたりとかよくあるんだよね。
俺のご飯は、普通に今日はパンと目玉焼き、あとコンソメのスープが体を温めてくれる。
で、公平さんは……
「コロッケパン?」
「そー昨日夕方買ったけど、食えなかったからさ」
さっき揚げなおしてくれた。と嬉しそうに公平さんはコロッケパンにかじりついた。
「おいしい?」
「うまい」
「良かった」
ご飯を食べて、顔洗って、服を着替えたら、まだのんびりしてる二人の前に戻る。
いつの間にか二人でソファーに座ってるけど、当たり前のように公平さんの腕は姉ちゃんの体に巻きついてるし、姉ちゃんは当たり前のように公平さんの体にべとーっと引っ付いてスマホを見てる。
ほんとこんなのばっか見せられてると、俺も早く彼女欲しいって思う……。
「いってくるね」
「おー、俺らも後で行くからな」
「気をつけてね」
二人で起き上がって、玄関まで見送りに来てくれるらしい。
靴をはいてたら、姉ちゃんがすごい小さい声で呟いた。
「ボーダーでは、姉弟とか関係ない。あんたが一人で頑張らないといけない世界。
わたしも、公平も、とうやを特別扱いなんて絶対しない。
だからとうやのペースで強くなって、ここまで、わたしたちのとこまで、登っておいで」
ボーダーに入ると決めて、姉ちゃんがオッケーをくれてから初めて言われた。
本気の言葉に、いい年なのに俺は泣きそうになって、振り向けなかった。
「強くなれよ、とうや。模擬戦ならいつでも付き合ってやるからさ。手加減はしねぇけどな」
トドメは、公平さんで。
二人共優しくない言葉なのになんでそんな優しい声で言うんだ。
「が、んばる」
涙が落ちそうだったから、それを振り切るつもりで足に力を込めて。
ぐっと立ち上がる。その勢いでドアを開けて飛び出せば、後ろで二人の笑い声が聞こえてきた。
めざすはボーダー本部。今日は入隊式。心底がんばらなきゃ、そう思えた。
わがやのあさはいつも
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