「公平ーひまぁ」
あまったりぃそんな声すらもかわいいから、こいつ以外の奴にそんなこと言われても速攻無視するけどさ。
さあらだから、しょうがねぇよな。
「一応任務中なんだから真面目にやれって」
「とか言いながらスマホ見てるのだーれ」
「俺」
本来なら非番だった今日、風邪ひいただのテストだのって、うちに防衛任務が回ってきたのは今日の昼。
そんで、今は夜の十時。
「太刀川さんは?」
「慶さんならこっちより、他の連中のとこのがゲート開く気がするって、そっち行っちゃった」
「唯我は?」
「慶さんに連れてかれたよぅ」
警戒区域の中で寂れた公園のベンチに腰を下ろせば、さあらも当たり前に俺の横に座る。
トリオン体だし、寒くはねぇけど、離れてるとなんか違和感なんで、自然と俺たちの距離は0センチ。
俺の見てるスマホをさあらが、俺の肩に頭を預けて一緒に覗く。
画面には俺のTwitterの垢が表示されてて、米屋とか緑川からいくつかコメントが入ってて。
「陽介まーたランク戦してたの」
「みてぇだな、緑川も」
どっちが勝った負けたってそれぞれから俺の返事もないのに次々にリプ合戦しやがって。
充電切れそ。
「あ、ねー公平。さあらのスマホ知ってる?」
「ん」
ポケットに入ってた奴を渡せば、当たり前みてえに受け取るし、文句も言わない。
そこがさあらのすごいとこ。
世間一般で、俺がさあらにやってるのが束縛し過ぎって奴なのは一応分かってる。
分かってるけど、さあらが嫌がらねーからまぁいいかって。
「ねね、公平」
「んー?」
自分のスマホを見てたさあらが顔を上げる。
上目遣いだって他の女子にやられたって余裕でスルーすんのに、さあらだと無理、可愛すぎるってなる。
それを分かってやるからタチわりぃ。
「これ、今度ここ行きたい」
画面に表示されたのは、砂糖の塊みたいなすげぇでけーパフェの写真。
お前、絶対1人で食いきれなくて半分以上俺が食う羽目になる奴じゃん。
「1人でちゃんと食えよな」
「うん!」
いい返事だけど絶対そうならねーのは過去の経験で分かってんだぞ、おい。
でもなぁ、多分近いうちに行くんだよ、絶対。
甘えるさあらに自分がよえーのは自覚済みだっての。
「はぁ」
「なぁに?」
「今度の休みに胸焼けする自分を先に慰めてんの」
「……がんばれ、公平」
おいお前のせいだろ。そこは自分ががんばれよ。
そんな感じでダラダラしてたら。
『いずみん!さあら!』
通信機から響いたのは、柚宇さんの声。
緊迫感のある声のトーンに、俺たちの近くにゲートが湧いたんだと瞬間的に理解する。
それは勿論、さあらも同じで、既に立ち上がったさあらの顔は先程までと違って。
惚れ直しそう。きれいなんだよな。こういう時のさあらは。
「行こう、公平」
「おー」
グラスホッパーで飛び上がれば、トリオン兵の群れ。
まぁ、俺とさあらが負けるような数じゃねぇ。
「あ、公平。手、貸して?」
「ん、んだよ?」
飛び降りたビルの上、眼下の群れを見下ろしながらさあらと手を繋げば直ぐに聞こえるシステムの声。
《トリガー臨時接続》
「いけぇ、公平のアステロイド!!」
……お前サボる気かよ。
まぁいいけど。
体内にさあらのトリオンが巡るだけで、ついつい笑っちまいそうになるから、むりやり顔を引き締めて。
「しょーがねーなぁ。消し炭になっちまえ。アステロイド」
ぶわりと大きな立方体を作り上げればきゃあ、と嬉しそうにさあらが笑う。
ああ、たのしくなってきた。
アステロイドを分割しながら、繋いだ手を軸にさあらの体を引き寄せて、片手で抱き上げる。
トリオン体のパワー様々。
「しっかり捕まっとけよ」
「さあら、りょーっかい」
ぎゅうと自分に抱きつくさあらを確かめて、群れの上目掛けて。
ひらりとビルから飛び降りた。
ぼうえいにんむなう
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