「あーたのしかったー」

と、作戦室に戻ると珍しくうちの作戦室はシーンと静か。
公平は模擬戦かな?とソファーに近付くと。

「あ、いた」

ソファーの背もたれで見えなかったけど、完全爆睡の出水公平さんがいました。
……ちょっとつついてみるけど。

「起きないね?」

小声なのは起こさないようにです。
ふっふっふ。思い出したのは、過去にやられたいたずら。

なるべく音を立てないようにそーっとソファーを離れると、柚宇ちゃんのデスクからマジックを取る。黒い油性の、太いやつ。

「顔かな、やっぱり」

キュっといい音をたてたマジックに少し慌てたけど、どうやら本当に爆睡中らしい公平は起きる気配がない。
そういえば昨日も防衛任務で帰ったの遅かったし、疲れてるんだろうねー。

「なんて書こう……んー……やっぱりこれか」

そーっとそーっとほっぺたにペンを這わせる。
擽ったいのか、たまに「ん、」とかいうから結構ヒヤヒヤするし、ちょっと色っぽいからやめてほしい。心臓に悪いデス。

なんとか無事に作戦終了。満足したので、ランク戦でも行こうかな。
柚宇ちゃんのマジックは返すの忘れたので、パーカーのポケットにつっこんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい、弾バカ」
「……ん?」

肩を叩かれて、意識が浮上する。あー割と本気で寝てたっぽい。
ぼーっとする頭と視界を振り払うみたいに頭を軽く振れば目の前には

「槍バカおはよ」
「うっす」
「……あれ、さあらは?」
「いや、俺来た時にはいなかったぜ」

まじか、あいつどこいったんだよ。
作戦室に唯一置かれてる時計のカニを睨みつければ、女子会いってくるーとか言ってあいつが出てったのはもう二時間も前だ。

「つーか、弾バカさ」
「んだよ?」
「とりあえず鏡みてこいよ」
「……あ?」

さあらが二時間も俺の側にいないのが分かれば、俺の機嫌は一気に急降下。
槍バカに対する声のトーンが自分でも分かるけど、相当低い。

苦笑してる槍バカに促されて、俺は渋々立ち上がった。
そして。

「……あのやろう」

ミニキッチンにあった小さな鏡を覗き込めば。
鏡に映る自分の顔に。

『さあらの』

と太い黒い字がガッツリ書かれていて。いつかの仕返しだとわかるけどな。
さあら、お前可愛いことしてくれんじゃねーか。覚悟はできてんだろーなぁ?あ?

「おい陽介!」
「へーい」
「さあら捕まえたら即連絡。緑川とかにも言っといて。さあら捕まえた奴には飯おごってやるって」
「米屋りょーっかい」

バンっと力任せに作戦室を飛び出して、かわいいかわいい俺のさあらを捕まえるために走り出した。
あ、トリガーはとっくに起動済な。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……なんか、いやな予感がする」
「え、どうした?さあら」
「や、なんか寒気がした」
「かぜかー?ほらこたつちゃんと入れって」
「ありがとー光」

ランク戦に行ったけど遊んでくれそうな相手がおらず、フラフラしてたら光が誘ってくれたので、わたしは只今影浦隊の作戦室。
一瞬なんでか背中を走ったのは、ゾクリという寒気。

「……あ、おい。さあら」
「なぁに、光」
「米屋からグループライン。『さあら見つけたら連絡くれ』だって」
「え」
「さあら捕まえたら出水が飯おごってくれるらしー」
「やば、もう起きたのかー!」

何やったんだよっていう光の目線に、えへへと笑ってごまかして。
わたしはそっとこたつから這い出た。

「やさしー光様だから、密告はしないでおいてやるよ!」
「わぁ光だいすきー!」
「はいはい、うまいこと逃げろよな!」

がんばります。
てかグループラインは酷くないですか。一気に敵が増えたぞ……?
しかもわたしのスマホは……

「げーわたしのスマホ、公平が持ったままじゃん!」

ポケットから出てきたのは、マジック一本とトリガーだけ。
いつも公平が持ってても特に困らないスマホだけど、今日はまずい。
一体誰が敵なのかも分からない危機的状況だ。
とりあえずトリガーは起動しとこ……

「あ、さあらちゃん先輩」
「お?空閑くんじゃないかぁ」
「どうもどうも」
「どうもどうもー」

コソコソ歩いていたら、前方から現れたのは、玉狛第二の空閑くんだった。
その表情からは、彼が敵なのかどうかもわからない。
ある程度の距離を取りつつ挨拶を返した。

「で、さあらちゃん先輩」
「んー?」
「捕まえてもいいか?」
「駄目です!!」

あー!敵だったー!そうか、空閑くん緑川と仲がいいんだ!
一瞬で詰められた距離を、左に体を振って避け、同時にグラスホッパーを目の前に並べ立てる。

三十六計逃げるに如かず!迷ってる暇はないのです!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「出水先輩」
「ん?」
「空閑がさあら先輩を捕まえようとしたら逃げられたって」
「どこで?」
「2Fの自販機の近く。トリガー起動してるっぽいよ」
「ふざけやがって」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



本部内は敵ばかりで危険だということで。
……あの後諏訪さんや犬飼先輩や、おっきーのバカにもおいかけられた……

現在さあらは、本部を出てポテポテと歩いている。
目指すは玉狛です。

空閑くんへの恨みをレイジさんにぶつけに行こうと思う。

「あれ?さあら先輩じゃねーっすか」
「あ。京介」

トボトボ歩いていたら、突然横からかけられた声。
聞き覚えはすごくあるので顔をあげると、モサモサのイケメンが立ってた。

「……近づかないで!京介!質問に答えて!」
「なんすか」
「公平とLINEした?」
「してねーっすよ」
「じゃぁわたしを捕まえる気はある?」
「なんでさあら先輩を捕まえなきゃいけないんですか?」

……ポーカーフェイスすぎて、読めない。
じーっと睨みつけると、不思議そうな顔をして京介が首をかしげた。

これは本当に、安全そう。な、気がする。
ふぅと息を吐き出すと、今度はわたしの方から京介に近付いた。

「バイト帰り?」
「そうっすよ、今から本部寄ってから玉狛いくとこです」
「お疲れ様ぁ」
「どーも。ってわけで」

がしり。

手首を突然、モサモサイケメンに掴まれた。

「あ、出水先輩っすか?さあらさん捕まえましたよ」

あああああああああ、このうそつきいいいいいいい!!!
手を離せええええええええええ!!

トリガー解除してたのが間違いだった!逃げようと手を振ってみるけどびくともしない。
え、力強くない?生身だよね?隠れマッチョなの?レイジさんの弟子だからなの?

「飯がかかってるんで」

大人しく捕まっといてくださいね。ってすごい良い笑顔だけど、そのイケメンフェイス言っとくけど、わたしには通用しないからね!?
はーなーしーてーくーだーさーいー!!


「さあら」


暴れてたら、ぽんと、肩に。手が。置かれると同時に、ひっくーーーーーい声で、私の名前を呼ぶ、声。

「こっち向けや」
「……やまだや、です」
「あ?」
「は、はい!」

あ?って、ヤクザかヤンキーか!って感じのやばい声だった!
今の10人以上殺してる人の声だった!
……あ、割と殺してるかも。公平。

「さあらちゃん?」
「な、んでしょう」
「お前女子会行くつったの何時だった」

あ、これは怒ってるやばいやつだ。
笑顔なのに、すごいこわいやつ!

「1時とかだった……かな?」
「だよなぁ。今何時?」
「えーっと……時計ないから、わかんないなぁ……」

ほら、スマホわたし持ってないもんね。しょうがないよね。うんうん。

「京介ぇ」
「なんすか?」
「今何時か、さあらに教えてやって?」
「五時まわってますね」

うわぁお、四時間も経ってた!

「だって、さあら」
「ご、ごめんなさい?」
「連絡もなしに?四時間も俺のことほっといて?」
「ごめんってばぁ」
「挙句に、これなに?なにかわいーことしてくれてんの?」

これと言いながら、自分のほっぺたを指す公平がちょっとかわいい。
可愛いけど笑ったらダメなとき!今はだめ!

「こ、こないだの仕返しだもん」
「へぇ」
「ごめんってばああ」
「許してほしいか?」
「うん!」

じゃぁ、今日覚悟しとけな。
にっこりいい笑顔の公平はわたしの体をぎゅうと抱き寄せて。

「とうやに、今日は公平んち泊まってって言っとけよ」

耳元にボソリ。
もう嫌な予感しかしない。

ちょっとした悪戯だったのに、むしろ仕返しだったのに。
このあとに待ち受ける時間に、わたしは大きくため息を吐き出した。


因みに逃げようとしたら、しっかり公平に担がれました。
ううう……。


更に因みにすると、持ってたマジックで公平のって書かれました。
また!またなの!消させて!!



とうそうちゅう


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