ギラギラとした目をしていたのは、公平で。
私の大事な人だから、そんな目をした公平を、受け止めるのも私の役目だと思った。

「さあら、さあら……」

最初は顔中に、胸に、首元に、ひたすらキスが降ってきたけど、途中から飢えた獣みたいになってしまった公平はがぶりと、私の体にたくさんの噛み跡を残し始めて、そのあいまあいま、降ってくる苦しそうにはかれるたくさんの私の名前。

痛いけど、やめてとはどうしてもいえないから、まぁしょうがないかと、吐き出したのは痛みと甘ったるい恋心からくる小さなため息だった。
その時、軽い電子音がすぐ近くで鳴ってシーンとなった部屋の中でやたらと大きく響いた。
着信音を変えるなんてことをしないタイプの、公平のスマホの音なのは、言うまでもないけど。

憎々しげに、自分のスマホを手繰り寄せて、公平は息を一つ。

「なに」
「そう、わかった。明日な」
「うん、了解」
「ああ」

普段より遥かにそっけない公平の返答の合間に聞こえたのは多分陽介の声。
そしてその電話の最中。公平の目は本当に冷たく感じるほど冷えていた。
ぶつりと容赦なく電話は叩き切られて、突然。

ガシャンっ、部屋の隅にスマホが叩きつけられた音に、びくりとしてしまったのはしょうがないと思う。

「公平……」
「わり、びっくりしたな」
「うん」
「ごめん」
「へーき」

一瞬だけ、いつもの眼にもどった公平はそういうとまたさっきまでの続きに戻ってしまう。
もう噛まれてないところが思いつかないくらい、至る所にきつめの所有印がちらばっていて。
ふと考えたのは、これはしばらく体育できないなってことだった。




むさぼる
1 飽きることなくほしがる。また、際限なくある行為を続ける。「暴利を―・る」「惰眠を―・る」
2 がつがつ食べる。「残飯を―・る野良犬」




ほんとにこんな感じで、気がつけば何時間もすぎて、目を覚ますと体中が色んな痛みでいっぱいだった。
公平はそんな私の体にその長い腕を絡めてすやすやと眠っている。
わたしを食べてた人と同じ人とは思えないくらい穏やかな寝顔で。

今回の遠征でどうしてこんなに公平が荒れてしまったのかは、理由は一つ。

遠征で、わたしたちは、近界民と直接的にぶつかった。
そして、わたしたちの太刀川隊は、その戦いのさなか、相手を、この手で。
はじめてだった。わたしも、公平も。

わたしたちにとっては当たり前のベイルアウトは彼らにはなく、トリオン体が崩壊すれば、あとは生身の死はほんとにすぐそこだった。
そして彼らは生身の状態で……武器を持ち、わたしたちに向かってきた。

やらなければ。

あの時、慶さんがやれといったそれを、間違ってたなんて絶対に思わないけど、でもやっぱり辛かった。苦しかった。




「おきてんの?」
「うん、さっき起きた」
「ごめん、無茶したかなり」
「へーき」

頭の上から、公平の声がしたから、私はさっきと同じくへーきだよ、大丈夫だよとつぶやく。小さな声だったけど、ちゃんと届いたみたいで、体に絡みついてる腕に少しだけ力がこもる。苦しくないくらいの小さな変化だったけど。

「しんどかったな、今回の」
「うん、きつかった」
「太刀川さんに、飯おごってもらおうぜ。じゃなきゃ割にあわねー」
「うん、そうしよ。焼肉がいい」
「おれも」

クツクツと笑う公平は、だいぶ普段の余裕が戻っていて、これぞ天才射手出水公平だって感じの声だった。

「痛いか?」
「いたいーすごくいたい、いろんなとこ痛い」
「だよなぁ」
「でも大丈夫、さあらには公平のくれるどんなものでも、愛に変換できる機能がついてるから」
「なにそれ、すげー便利」

首筋にある噛み跡はちょっとグロい色に変色しているらしい。
撫でながら自分のしたことなのに、すげー色と公平がつぶやいた。
ひどくない?

「なあ、俺にも跡つけて」
「えー痛いよ?」
「大丈夫、俺にもさあらがくれるもの全部愛に変える機能つけた」
「わぁべんり」

じゃぁ遠慮なく。


よいしょと公平の首筋に顔を寄せると、がぶりと容赦なく、グロい色にかえるくらいのつもりで、私の体より硬いそこに、歯を立てた。
この跡一生消えなかったらいいのにな、そんなことを考えながら。



いたみをあいにかえてしまえば


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