「さあら!頼む!」
「え?どうしたの?」

作戦室でまったりと柚宇ちゃんとゲームをしていたら、突然作戦室に入ってきたのは、陽介と駿だった。しかもその勢いのまま突然、私の側で頭を下げたりしだすから、本当に何事って感じで。
柚宇ちゃんも驚いて目を大きくしてた。

「え。なになに?」
「頼むから一緒に来てくれって」
「いやいいけど、事情説明してよわけわかんないんだけど……」

無理やり立たされて腕を引っ張られるから、しょうがなく、柚宇ちゃんにすぐ戻るねええと大きな声を出しながら、二人についていく。その間に説明をしてもらおうとするけど、二人は焦ってるみたいで、なかなか事情を説明してくれず……

結局私はあっという間に個人ランク戦室まで連れてこられてしまった。

「……公平?」

そして入った個人ランク戦室は、これは何事だろうか。
いつもならごった返してる人たちが、真ん中にいる公平を遠巻きに見ていて。
その公平は……

「だいぶ怒ってる、ね?」

ランク戦室の中が、怒ってる公平がまるで温度を下げているかのように、冷気すら漂っているような気がする。

「なにがあったの?」

私を公平の方へ押しやろうとする二人に、まずはなにより事情を聞こうと振り向く。
こらこらこら、無理やり押さないで!

「実はさ、出水に個人ランク戦で負けた奴が、最初は出水の悪口つーかそういうの言ってたんだけど、とうとうさあらのことまで悪く言い始めてさ……」
「あー……なるほど」
「そしたらてめぇ何言った?って怒り始めて、危うくここで暴れようとしたんだけどなんとか止めて、そしたらあの状態で誰も近付けねーっていうな」

なるほどぉ……誰か知らないけど、怖いもの知らずだなぁ。
しょうがない、一肌脱ごうじゃないか。そう決めて、公平へと近付く。

全身トゲトゲの公平だけど、公平なら怒っててもこわくないもん。

「公平」
「……さあら。あいつら、呼びやがったのかよ」
「そうだよー」

公平と呼べば、目線が私に向けられて、少しだけ険しい表情が和らいで。
その隙に、一気に距離を縮めてしまう。

「どしたの?そんなに怒ってるのめずらしいねぇ」
「……別に、なんでもねぇよ」
「なんでもないって顔してないけど?」
「うるせーな」

さわんなって言われたけど、触りますー。さあらの特権でしょ?いつでもどこでもさあらは公平のものだけど、それは公平も同じ。
怒ってる時も楽しい時も辛い時も、いつでも隣りにいるし、いつでも公平に触れる権利がさあらにはあるのでーっす。

ぎゅうと抱きつくと、強張っていた公平の肩の力が少しだけ抜ける。

「そんなに怒らないで?さあらが悪く言われたからって、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねーよ、俺が」
「大丈夫だもん、さあらのことは、公平や慶さんや柚宇ちゃんが分かっててくれたらいいんだよー。さあらが知らない人に何か言われても、さあらは全然へーき。公平が愛してくれてるなら、それで大丈夫なのー」

私のことは、公平が一番わかってるでしょ?だったら私は何言われてもへーき。

「さあら、ほんっとお前ってバカだな」
「えーひどい」
「馬鹿すぎてすげぇ可愛い」
「前半いらない」
「すげぇ可愛い」
「よろしい」

ちゅうと、触れるだけのキスが公平から降ってくるから、私はそれをそのまま受け止める。こういう愛されてるなぁって思える優しいキスも好き。激しいのは、たまになら好き。

ふふふと勝手に笑いが漏れるけど、かわいいとまた公平が褒めてくれるから良いのです。



「出水ー、機嫌治った?」
「おー。手間かけてごめん」
「全然おっけーだよ。さあら先輩呼んだらすぐ問題解決するの知ってるし」
「否定はしねーけど、その顔ムカつく。緑川」
「まぁまぁ、とりあえずさあらの悪口言った連中は俺らが〆とくからお前らもう帰れよ」

出水の怒りが収まってすぐ。陽介と駿は、笑いながら近付いてきて。
公平と幾つか言葉を交わして、私達をランク戦室から追い出した。

その後、阿鼻叫喚のランク戦が行われたらしいけど、その時の私達はさっさと作戦室に戻って、柚宇ちゃんたちとゲームをしてたので、詳しくはしらない。
とりあえず、数日後、公平に土下座をしたらしいとだけは言っておきマス。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さあらが柚宇さんとゲームをしていて暇だった俺は、誘いに来た米屋達と個人ランク戦室にきた。
んでブースに入ったらすぐ、アステロイド5000ポイント前後の奴からランク戦を挑まれて、まぁ良いかと受けた。

で、戦ってみりゃ、まぁ悪いけど圧勝って感じで。俺は一戦も落とさずに勝った。

そしたらだ。

「弾数だけの能無し」

なんて聞こえてきた。見たら、さっき戦った相手。
でも別に、そんな低レベルな煽りなんて慣れてるし、いちいち相手にしてらんねーし。
無視してたら、それが気に食わなかったんだろ?

「女にちやほやされていい気になってるんだろ。なんだってやまだだっけ?彼氏のコネでA級になった女が恋人なんだろ?」

……お前、それはダメだろ。
他に何言われようがさぁ、俺は気にもしねーけどさ。さあらのことはダメだろ?

「なぁ、喧嘩売ってんならいくらでも買ってやるけど?」

一歩そいつに足を踏み出すと、そいつはビクリと体を震わせた。
よっぽどヒドい顔してんだろうな、今の俺。

「さあらのことは、ダメだろ。俺のことなんて言おうがどーでもいいけどさぁ」

更に一歩。そしたら、視線の先のあいつは、怯えたように一歩下がる。
なぁ逃げんなよ。そっちだろ、先に喧嘩売ってきたのはさぁ。

あーダリィ。もうめんどくさい。ぶちかましてやろうか。ギムレットでも。
キィンと慣れた感触がして右手にアステロイドを生み出した。ほぼ無意識のままで。

それを分割しようとしたら。

「ちょ!出水待て!待て待て待て!それはまずいって!」
「出水先輩!待って!ちょっとだけ待って!気持ちは分かるから!!」

がしりと、両腕を捕まえられて見たら、右手は米屋。左手は緑川。
流石にこの二人ごと吹っ飛ばすわけにも行かない。しょうがねーから、アステロイドを消した。

「ちょっと待っとけよ!頼むから!」
「すぐ戻るからね!出水先輩!動かないで!」

そして、何処かへと消えた二人を見るとはなしに見送って。
はぁあああと、ため息を吐き出した。
俺の半径5メートル辺りから一気に人が減っていて、なんか笑えてくるやらムカつくやら。

辺りを見渡してやると、その視線の先にいる連中が一気に俺から更に距離を取る。
その反応すら、うっとおしくて。更に自分でも機嫌が急下降しているのがわかったくらいだ。

その時。

「公平」

俺の大事な大事な、さあらの声。
自然と口からこぼれるさあらという名前。

「どうしたの?そんなに怒ってるのめずらしいね」

そう言われてしまえば、顔をそらすしかない。
大体、機嫌悪かろうが、どんなときだろうが、さあらが目の前にいるだけで、俺の機嫌は治ってしまうのに。
だからそれを分かってて連れてくるんだろうけどさぁ。米屋達も。
でも、今日のは俺はちゃんと怒んねーと、お前の耳にもし入ったら許せねーから。さあらが傷つくのはやだ。

なのにさ。さあらはさ。

「大丈夫だもん、さあらのことは、公平や慶さんや柚宇ちゃんが分かっててくれたらいいんだよー。さあらが知らない人に何か言われても、さあらは全然へーき。公平が愛してくれてるなら、それで大丈夫なのー」

なんて笑うんだぜ。なんなの、バカなのかよ。ちゃんと怒れよ。
でも、そういうさあらだから、俺は、お前を守らねーとって思うんだ。

「さあら、ほんっとお前ってバカだな」
「えーひどい」
「馬鹿すぎてすげぇ可愛い」
「前半いらない」
「すげぇ可愛い」
「よろしい」

うん、すげぇ可愛い。間違いねーわ。
ぎゅうと抱きつかれて、もう腹の中のムカムカは消えてしまった。


結局、米屋達に個人ランク戦室を追い出された俺とさあらは、手を繋いで自分たちの作戦室を目指す。華奢な白い手が、しっかり俺の手を握ってて。可愛いし、あったかい。

「公平、ありがとお」
「おー」
「私の代わりに怒ってくれて」
「おー」

「大好きだよー」
「俺も」

もう絶対この手は離さねー。
俺の決心は、もう何度目かの自分への誓いとして、胸にしまった。

ごきげんななめですか?


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