「あっれ、珍しいさあら一人かよ」
「陽介おかーえりー」
「おー。出水どした?」
「後輩女子から呼び出されました」

職員室に呼び出されていた陽介が戻ってきたのを、目の端に捉えながら。私は公平の机でだらりと体を投げ出して頭を上げる元気もなかった。
そのせいで心配したのか、陽介が荷物を持ってすぐ近くにきたので、ようやく顔をあげる。

「あー、だから不機嫌なのな」
「そーんーなーこーとありまーせーんー」
「めっちゃ機嫌悪いじゃん」
「だってぇ」

ぽんぽんと頭を撫でられるが、だめです。陽介さん。今日はそんなのでは気分浮上しません。
公平早く帰ってきてよー。

「そんな機嫌悪くなるなら迎えに行けばいいんじゃね」
「……!天才なの、陽介」
「だっろー。俺もいこー」

そして私と陽介は屋上に呼び出された公平を迎えに立ち上がった。



屋上の扉の隙間から、公平とその相手の後輩を見る。
頭の上には、陽介の顔。映画とかでみるやつだ。

「えー、なにあのこ可愛くない?」
「そうか?普通だろ」
「えー。女子力高そうだし……守ってあげたい系女子っていうか」
「まぁ、大人しそうだしな」

なんか喋ってるみたいだけど、聞こえないのがもどかしい。
公平の背中しか見えないし。

「きくっちー連れてくりゃよかったな」
「ほんとそれ、なにしゃべってるのかなぁ」

なんだか、じわじわ不安になってきて、眼がうるむ。
途端に頭の上の陽介から優しい声が降ってきた。

「泣くなって。大丈夫だっつーの」
「そうかなぁ……うう……」

つーか、もうお前行って来い。
と声が頭の上がして、どんっと突き飛ばされた。

え、ちょ、おま。ちょまちょま。

扉が大きく開いて、体を屋上に放り出される。
ずべっと地面に投げ出された私は、ペタンと地面に座り込んで。
当然そんな状態だから、公平や後輩さんにも思いっきり見られてる。
ばーれーたー。覗きがばれた。

後ろをキッと振り向いて、なにすんのよ!と頬をふくらませると、陽介はがんばれーとひらひら手を降って扉を閉めてしまった。逃げた!あの人逃げましたよ!

「なぁにやってんだよ、さあら」
「……えーっと。……どうもどうも?」
「はい、どーも」

公平は優しいので、ずべってなって立たない私を心配して、後輩ちゃんのところから私のところへ来てくれる。

「あー擦りむいてんじゃねーか」
「うそ、あ、血出てる」
「ったく、気をつけろよな」
「ごめんってば」

陽介のせいじゃんこれ。絶対あとでジュース奢らせる。
擦りむいたところをこすらないようにしながら、ゆっくり立ち上がると、公平が支えてくれる。

「邪魔してごめんね」
「別にいーけど。あ、あのさ。俺こいつのだから。色々話してくれたけど、わりーな」

前半は私に向けて。後半は後輩ちゃんに向けて。
こいつの、と言いながら私を抱き寄せるから、後輩ちゃんの視線がチクチクします。

「……諦められません」
「とか言われてもなー」

視線のチクチクはどんどん強さをまして、今やザクザクレベル。
女子の嫉妬は恐ろしいのですー。

だがしかし。私は公平のだし、公平は私のだから。

「えーっと、後輩ちゃん。さあら、公平のこと世界で一番好きだし。公平にも一番愛されてる自信があるからいうけど。あなたにはさあらの代わりは無理だと思うから。公平は渡せないなぁ」
「そ、そんなの」

言っておきますけど、公平の束縛に耐えられる人間なんてそんなに居ないと思うよ?
寝てる時も起きてる時も常に大半一緒にいるし、いないと怒るし、連絡取れなくても怒るし、携帯とか勝手に見られるし、むしろさあらの携帯を公平が持ってるとかよくあるし、他の人に名前呼ばれるだけで不機嫌になるし、いきなり両手両足もぎ取られたりするし、人前でちゅーとか普通にあるし……

まだ聞きたい?って首をかしげたら。後輩ちゃんは、あ、固まってる。
そして公平は、当たり前だろって顔してた。世間一般的には当たり前じゃないと思うよ。束縛魔王だから、公平。

「こんな公平と普通に付き合えるの、私だけだと思うなぁ」
「そもそも俺はさあら以外と付き合う気ねーから」

だって、ごめんね。後輩ちゃん。
泣きそうな顔の後輩ちゃんを見送ると、公平から大きなため息が吐き出される。

「はーつかれた。何言っても大丈夫です、出水先輩がすきなんですっていわれるし、泣かせそうで下手なこといえねーし」
「でてきてよかった?」
「良かった良かった。ありがとな」
「どういたしまして」

ぎゅうと抱きしめられると、ほっとする。公平の匂い好きだなぁ。

「つか、保健室いくぞ。消毒しねぇと」
「そうだった。陽介に説教しないと、突き飛ばされたんだった」
「あー。それであんな出てき方だったわけね」
「そうそう」

よし、槍バカ捕まえてジュース奢らせようぜ。保健室よってから。
そう言って歩き出した公平の腕に、自分の腕を絡めた。

こくはくされました ver.I


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