「なに、喧嘩か?」
「まーそんな感じっすね」

不機嫌そうな出水は、おごってやったジュースを一息で飲み干すと、手の中のジュースの空の紙パックをグシャリと握りつぶした。
分かりやすく怒ってんなぁ。

「なにがあったんだよ」
「別になんもねーっすよ。いきなりさあらが怒り出して、話したけど結局お互いひかねーから、止まんなくなってそのままって感じの」
「珍しいな、お前はともかくさあらが出水に怒るとか」

基本的にさあらは、出水に何されようが何言われようが、絶対に怒らない。受け入れる。そこが俺とか国近には、ちょっと理解し難いとこなんだけど。
でもさあらは自分に対して、出水がなにしようと笑ってるし、愛されてるからとかいっていつも平気そう。

「なにがあったんだよ」
「えー……クラスの女子と喋ってて、そしたらさあらが不機嫌になったんすよ」
「喋ってただけか?」
「……たぶん?普通に喋ってただけだと思いマスけど」
「相手の体に触った、または触られたとかは」
「あーどうだっけ。髪の毛触ったり、触られたりはしたかも?」

なんでお前って、さあらが誰かに触るとか触られるとかには口うるせぇのに、自分だとそんなんなんだって。

「まぁしばらく頭冷やします、そのうちあっちもなんか言ってくるだろうし」

そういう出水は、明らかにいつもの状態ではなくて。時々隣に誰かを探したりするし、たまにさあらのこと呼ぼうとして名前の一文字目を口にしては、まずいもん食ったみたいな顔するし。あとやたらため息の回数が多い。
ったく、お前、そんな気になるなら、さっさと謝ってこいよ!



「慶さんどうだったの」
「いやーどうだろうなぁ。出水頑固だし」
「さあらも今はわたしわるくないもんってずっと言ってるー」
「いやまぁ、正直さあら悪くねーしなぁ」
「そもそも!あの束縛いずみんのことあれだけ我慢してるんだから!いずみんだって多少の嫉妬はちゃんと受け止めてあげなきゃ!」
「つーか嫉妬されるようなことしてる自覚ねーんだよな、出水の場合」
「えー」



結局そのままお互い謝る様子もなく、二人は別々に帰ってしまった。
しょうがないので、俺が国近とさあらを家の前まで送っていく。
なんかさあらがいつもの半分くらいに小さくなったみたいに見えるくらい、明らかにしょんぼりしていて、元気だせよとも言いづらいし、とりあえずアイスを買って無理やりに渡してやった。

で。翌日。

「出水、お前」
「なんすか……」

一人で本部まで来たらしい出水は、どう見ても寝てないらしく、顔色が土みたいだぞ。お前大丈夫か。

「大丈夫ではないです」
「だろうな」
「全然寝れなくて、朝寝坊して、さあらからLINEきてたけど、返事してる余裕もなくて」
「あー……」

THE 悪循環。

「で、米屋にそりゃー彼氏が他の奴の頭撫でてたら、普通キレるってって言われて」
「お前、それ無自覚だったのか」
「あいつとサイズ似てたし、なんかいつもの感じでした」
「お前、さあらのことになるとすげぇのになんで自分だと雑なんだよ」
「さすがにちょっと反省してます」

……はぁあ、と深いため息を吐き出すと、出水も同じタイミングでため息を吐いていて。
重なるため息に、なんか既に俺もう疲れた。

「謝ってきます。どう考えても俺が悪いんで」
「そうしろ」

さあらを探すために立ち上がった出水の背中を見ながら、国近にLINEを送る。

今日なんか食いにいこうぜ、俺もう疲れた。

数秒で既読がついて、国近のOKスタンプと、ぐったりした熊の絵に、俺らいいおにーさんおねーさんだなぁとしみじみ思うのだった。

たちかわおにーさんからみた喧嘩


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