俺が、あの二人を見つけたのはそろそろお前も身の振り方を考えろ、と忍田さんや風間さんに顔を合わす度に言われるようになった頃だった。
今までフリーで適当に忍田さん等に言われるまま弧月を奮ってたわけだけど、それじゃぁダメだと突然言われて。

なんつーの、あ、そうそうセイテンのヘキエキとかなんとかいうやつで。
むしゃくしゃしながら、個人ランク戦のできるランク戦室に飛び込んで、そこで見つけたのが。

あいつらだった。



まだC級の隊服を着たそいつらは、二人して同じような淡い茶色の髪をしてた。
そして二人はどうやら模擬戦をしてるらしく、モニターの前には小さな人だまり。

何やってんだ?とモニターに近づいた瞬間だった。
人溜まりがびっくりして、全員が叫び声を上げるほど……強烈な光が、モニターを覆い、画面は白一色に染められた。

「な、なんだいまの」

光が収まり、モニターがまともに動き始めたそこには、立ち込める煙の中を縦横無尽に飛び回る小さなC級の隊服と、その中心で飛び回る軌道を目で追いながら、その小柄な体には似つかわしくないほど大きなトリオンキューブを両手の平に作り上げるこれまたC級を着たガキの姿。

飛び回ってる方の武器が、どうやら拳銃であることをそのスピードの中でもしっかりと確認して俺はモニターの最前列を陣取った。

ガンナーの方が使ってるのはどうやらメインはアステロイド、サブはさっきからコロコロと弾丸の種類を変えているようだが、アステロイドだったりハウンドだったり。
グラスホッパーの使い方はなかなか悪くない。
シューターの方は、次から次へと様々なトリオンキューブを作り上げては、動き回るガンナーへ弾丸を叩きつけている。
どれもこれもかなりの威力だがなにより、バイパーの軌道が半端じゃない。一つ一つの小さなキューブが、まるでそれぞれが命を吹き込まれたかのように、ガンナーを追い込んでいく。
あれほど、緻密な弾道を描けるシューターなんて、今まで見たことがなかった。

そして、そのバイパーを受けているガンナーも、高速で動き回りながら拳銃からハウンドを、時にはメテオラを弾いて自分に向かってくるバイパーにぶつけ、それでも足りなかった残りのバイパーにはシールドをぶつけ、シールドが壊れるまでの僅かな時間で、シューターに向けて弾丸を放つ。
なかなか堂に入った戦い方だった。

そしてまたあの白い閃光がモニターを包む。
ああ、なるほどさっきのはこれか。そういうことか。

あの二人の放つメテオラ同士が、アステロイド同士がぶつかり合い弾け合い、狭い部屋の中はもう煙と光と音でいっぱいなのだろう。
そんな中で、C級の服を着たガキ二人は、本当に楽しそうに、笑顔を浮かべていた。

そして、ガンナーが突然動きを止めた。
もちろんそれは一瞬のことで。

部屋の周りをぐるぐると逃げ回っていたガンナーは突然シューターへまるで突っ込むかのようにグラスホッパーを足で弾いた。

どんっと、大きな衝撃音が弾けて、モニターはまた真っ白に。
どうなった、どうなったんだよ。早く、早く。はやく!

モニターが生き返った時には、二人のC級はようやく、動きを止めていた。
シューターはまだ立っていた。けれどシューターの右腕は吹っ飛んだのだろう、かなりのダメージを受けていた。
そして、もう一人のガンナーは、先程の壁とは反対側まで吹っ飛んでおり、その体には無数の穴が合いていた。その上、両手が肘から下がない状態。こちらもかなりのダメージだ。
どちらの勝利かといえば、全く動けそうにないガンナーが負け、シューターの勝利だろう。


なんだ、なんだこいつらは。やべーだろ。
ワクワクした。

そして、たまらなくなって。俺は、腹の底から湧き上がる笑いを堪えられなかった。

「なぁ。こいつら誰?」

周りの人溜まりに誰ともなしに聞けば、後ろから聞き慣れた声が返ってきた。

「この前の入隊式から入った、新人二人組みのようだな」
「風間さん、あんたも見てたのか」
「ああ、射手の方が出水公平、銃手がやまださあら」
「え、さあら、ってあの銃手女?」
「らしいな」

隣に並んだ風間さんも興味ありまくりです、みたいな顔でモニターを見つめた。
そのモニターのなかでは二人して何やら相談でもしているようだった。

「ふたりとも、3日ほど前にB級にあがったらしい」
「へぇ」
「上がってからこの3日ほとんど二人で模擬戦を続けているようだな」
「へぇ」

ワクワクしながら、二人が出てくるのを待っていると、また風間さんの声が横から届く。

「待っていると、また戦い始めるぞ」
「え、まじ?」
「いつも平気で数時間以上出てこない」

それはやばい。また戦いが始まれば俺はまた待つしかできなくなる。
それはまずい。今すぐにでもあいつらに、お前らすげぇな、とそう伝えてやりたいのに。

訓練室の扉には中へ声を届けるためのボタンがあるのに、俺はすっかりそんなことも忘れて、頑丈な鉄の扉をガンガンと殴りつけた。
したら、すぐに扉はそおっと隙間を開けて、そこからちらりと見えたのは、不安そうなさあらとまるでそんなさあらを守ろうとするかのように、自分の後ろにさあらを隠した出水の姿。

もうほんとに面白かった。腹が痛いくらいだ。

「よお、お前ら。俺と組まねーか?」

自分の名前を名乗ることすら、その時の俺は忘れて、しまりそうな扉の間に腕を滑り込ませて、無理やり体を訓練室の中に滑り込ませて。距離を取ろうとした二人をガシりと掴んだ。
その時の不審者を見るような二人(特に出水は完全に犯罪者をみる目だった)の顔は未だに忘れられない。




あれから、三年。

出水はランキングでこそ、射手一位ではないが、それはランキングのポイントシステム的なやつで。
出水はアステロイドだけに拘らずトドメを刺すにも様々な弾丸を使うせいで平均的に射手トリガーの高ポイントを得ている天才射手となった。
そしてさあらは、いまや不動の銃手ランキング一位、他になかなか類を見ない高機動型で、威力を上げ、弾速と射程を落とした近接距離で相手をぶち抜くちょっと、変態臭い動きの銃手となった。三年前は誰も気付いていなかったさあらのサイドエフェクトはうまくさあらに作用しているようだ。

そして、うちの隊には天才ゲーマーのオペレーター国近が加わり、この1年とちょっと俺の隊は一度も負けてない。
俺たちの腕に描かれたエンブレムには常にA01と刺繍されている。



お荷物くん、唯我が追加加入しても、それでもうちは未だに一位で。
最近では出水とさあらが二人してランク戦直後、唯我の元へかけつけて、タコ殴りに合う唯我を助けるのがお決まりのパターンとなっている。

あの二人、どっちも異常にトリオンでかいからな。
そんじょそこらのやつではあの二人のダブルフルガードは割れやしない。

「ほんっと、お前ら強くなったよなぁ」

そう呟けば、向かい側のソファーで二人して同じスマホを顔を寄せ合って見つめていた出水達が全く同じタイミングで顔をあげた。

「そりゃぁ、太刀川さんみたいな人に日夜しごかれてますし?」

そう出水が呟けば、続けて楽しそうに笑みを浮かべたさあらが続く。

「けいさん、しごきの鬼だからぁ」
「それな」

ケタケタと笑う二人がほんとに可愛くてしょうがない。
よし、そんなに言うなら。

「じゃぁ今日もたっぷりしごいてやろうじゃねぇか」
「えええ」

ニヤリと笑えば二人はおっそろしくブッサイクな顔で逃げようとしたので。
俺はいつぞやのように、がしりと二人を捕まえた。
そしてそのままさあらを抱え上げると、結局出水は大きなため息を吐き出してしょうがねぇな、と笑っていた。

今日も、太刀川隊は元気だし、最高だった。

これは、そんな俺とあいつらの、はなし。



あ。ちなみに。

「たーけーるぅ、一人だけ逃げようとしてんじゃねーぞー」

入り口からそっと逃げようとしていた唯我は、同じガンナーにして師匠のさあらにしっかり見つかり、さあらは俺に抱っこされたまましっかり唯我を捕まえていたことを報告しておく。

あのふたりのはなしをしよう


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