太刀川隊は、仲がいい。
これは自他ともに認められている事実だ。

戦闘中以外はゆるい太刀川に、元々神経質とは無縁の気質の出水にさあらに、国近。
あとはちょっとおばか(出水談)な唯我。
一緒に長時間いても、お互い疲れないところがきっと合うのだろう。


というわけで、本日は訓練室に戦闘員全員が集まって、あれやこれやと一緒に何かをしていた。国近はモニター越しの参加だ。

「はい、慶さんつかまえたー」
「うお。捕まった」
「じゃーあとでジュースおごりね」

グラスホッパー鬼ごっこと題して、二人はくるくると部屋の壁を飛び回っていたが、さあらが追いついて、慶に抱きついた為、おにごっこは終わったらしい。
抱きついてきたさあらを軽々と抱きかかえると、太刀川は出水が座り込んでいるところへ近付いた。
因みに唯我はぐるぐると飛び回る二人を見て、目を回したらしく頭をふるふると動かしながら床にへたり込んでいた。

「なにしてんだ?出水」
「……あー、ちょっと。もうちょいでできそうなんで、太刀川さんはさあらと遊んどいてください」
「お?まぁ良いけどよ」
「集中したいんで、喋りかけないでくださいね」
「おっけーおっけー。よしさあら、弧月で遊ぶぞ」

ええええと嫌そうな声をあげるさあらに、太刀川は楽しそうにはっはと笑って、抱きかかえたままのさあらを、出水から少し離れたところで下ろす。
一応、本人の希望通り、邪魔しないように気を使ってみた結果だ。

「ほらさっさとトリガー切り替えろ」
「やーだー」
「文句言うな」
「だってー、弧月弱いもん、さあら」
「お前が弱いつったら、B級のやつ大半弱くなるぞ」

元々祖父が剣術の道場をしていたさあらが、実は弧月も使えるというのは太刀川隊のメンバーと、他よほど彼女と仲がいい人間しか知らないことだ。

「おら、とっととかかってこい」
「もー……あ、慶さん」
「ん、どうした?」
「私がちょっとでも弧月慶さんに叩き込めたら、今度うちの弟の特訓してあげて」
「あーとうやか。それなら別にいつでもいいけどなー」

諸手を上げて、弟のボーダー入隊を喜んでいるわけではない。
けれど、ボーダーで強くなりたいというのが、本人の希望なら。
少しだけ協力してあげてもいいかなと、さあらは考えていた。
そして、太刀川に面倒を見てもらえるのは、弟が弧月使いとしていくならそれはとんでもない力になるだろう。

「慶さん、そういえば弟子取らないねぇ」
「俺には師匠は向いてないって。理論的に教えてやれないから、一緒に戦うだけしかできないしなぁ」
「そうかなぁ。慶さんくらい強い人と戦えるなら、それだけで成長できると思う」
「それは、お前とか出水みたいに地力のあるやつだからだろ」

太刀川の部隊に入ってもうすぐ二年。
出水もさあらも何度も太刀川と模擬戦や訓練を繰り返してきた。
そして、出水もさあらも2年前とは比べ物にならないくらい強く、なった。

飛んでくる旋空をグラスホッパーで飛んで避け、同時に太刀川と距離を詰める。
死角から叩き込んだ弧月だったが、太刀川は余裕の表情で受け止める。

「軽すぎだな、勢いは悪くないんだけどなぁ」
「体格差考えてくださーい」

押し込まれた剣をググッと両腕に力を込めて耐える。

「まぁ、まだまだお前には負けてやれねぇよ。こっちではな」

戦闘中には珍しく、太刀川が甘く優しく微笑んだ。
こんな顔をするのは大体、太刀川が自分の愛する部下達と一緒の時くらいだ。
そして同時に、太刀川の弧月がさあらの体を切り裂いた。

『トリオン供給体破損、さあらベイルアウトー』

国近の明るいダウン宣言が室内に響き渡って、太刀川は弧月を鞘に戻した。
そして、倒れたさあらを子供のように、また抱えあげる。

「ま、今度とうや連れてこい。面倒くらいみてやる」
「うん!ありがとぉ慶さん、大好き!」
「おー。俺も愛してるぞー」



「さあら!太刀川さん!」
「お?」
「どしたの公平」

しばらくいちゃいちゃしていた二人は名前を呼ばれて、出水のとこに戻った。
そこには、笑顔満面の出水と、驚きに目を見開いてありえないありえないとつぶやく唯我がいた。

「ちょっとこれ見てくださいよ!結宇さん大型近界民の的お願いします」
『おっけー!前方に出現ー』
離れて、と出水の声に、太刀川も名前も、そして唯我も大人しく壁際まで下がる。
3人の視界には、出水の背中と、その向こうに巨大な的が現れた。

「アステロイド、アステロイド」

見慣れた四角を両手に出した出水に、太刀川は首をかしげる。

「なにしてんだ?」
「さぁ……ん?」
「え、なんだあれ」

両手に出したアステロイドがふわふわと少し形を崩して、10秒ほど出水は動かなかった。背中しか見えないため、何をしているかよく見えず、太刀川やさあらはひたすら首をかしげていた。

その時。

ようやく四角を細かく分割した出水が、的に向けて攻撃を放った。
着弾の光と音が、室内に響き渡る。ドドドドドドと、恐ろしい音がした。

「あ、やべ」

煙が収まり、太刀川達の視界がようやく生き返ると、そこには。

「え、穴空いてんだけど」
「え、的どこいったの」
「え、吹っ飛んだ?」
「えええ……」

訓練室の壁に、直径3メートル程の穴が空いていた。
ああ、すげぇ空が青い。
思わず太刀川が現実から逃避したのは、この場合は責められないだろう。

「いまの、なに?こうへい」
「いや、アステロイドとアステロイドをさ。合成してみたんだよな」
「ごう、せい?」
「そう、くっつけた」
「アステロイドとアステロイドを…?」
「だから、さっきからそう言ってんだろ?」

ねぇ、この人おかしなこといってる!とさあらは太刀川を振り向いたが、太刀川とて、正直いってそんなことを俺に振るなといいたい。
そしてとんでもないことが起きているのに、それをやってのけた当の本人はけろりとしていて、いやー予想外に強すぎて穴あいちゃいました。と笑っていた。

『おい!お前ら!何してる!!太刀川!何をした!!』

困惑して、どうしたものかと悩んでいると、スピーカーから、激怒している鬼怒太の大声が室内に響く。

「俺じゃねぇって」
「ほんとそれ……公平、なんとかしてよお」
「いやー……なんかごめんな?」
「まって謝罪が軽い」
「軽すぎだろ!」

結局、その後太刀川隊のメンバーは全員室内から無理やり引っ張り出され、鬼怒太さんを初め忍田本部長と開発部、そして風間が仁王立ちになっている目の前で、全員が正座させられ……その後数時間に渡り説教をされることとなったのだった。

てんさいしゅーたーでんせつ


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