「ね、公平。模擬戦、しよ?」

今まで付き合ってきたけど、こんな言葉を公平にむけたのは本当に数えるくらいしかないと思う。
ご存知の通り戦闘ジャンキーの彼なので、模擬戦をしたくなればあっちから声をかけてくるし、それにたまーにある『攻撃的』になるときも公平から誘ってくるのがほとんど。

でも、今日はちょっとだけ特別なのです。

「いいけど」

柚宇ちゃんとゲームをしていた公平はちらりと私の方をみると、ふぅんと何か少し含みのある、愉快そうな顔をした。唇の端が少しだけ上がって笑う彼の顔に、不覚にもどきりとした。
ああ、すきだなぁなんて考えてしまう。私はなんてチョロいのだろうか。
ゆっくり立ち上がる公平の手をとって、わたしが先導して訓練室を目指した。



「珍しいじゃん」
「いいの!」

到着した訓練室。隣同士の個室に入る直前、ようやく公平が口を開く。
ニヤニヤ笑ってるから、私が何かをしようとしてるのには気付いているのか。どうなのか。
無理やり会話をシャットアウトして、個室の扉に飛び込んだ。



「10本先制?」
「ううん、私が満足するまでやる」
「へぇ」

見慣れた風景が広がって、10メートルほど先に公平が立っていた。
いつも通りのその光景なのに、ちょっと今日は緊張してる。
今日は、負けられない。ううん。負けてもいい。でも最後には勝つ。それもただ勝つんじゃなくて……

両手に使い慣れた拳銃をそれぞれ一つ。トリオンを集めて作り上げると体の重心をグッと下げて、足に力を込める。同時に笑いながら公平は大きな四角を二つ作り上げていた。


次々に細かく軌道を描いた弾が私に向かって容赦無く降り注ぐ。
それを足を使い、腰をひねり、そして時には銀色にひかる板を自分の足元に作り上げて無理やり体を違う方へ動かし続ける。一瞬の判断ミスを見逃す公平じゃない。気を抜く暇もない。
生身ならとっくに軋んでバラバラになっていそう。ダウンの声はもう何度も聞いた。私のも。たまには公平のダウンも宣言されてる。でも止まらない。私が止まらないから、公平も止まらなかった。

「ほ、んっとに強いなぁ」
「とーぜんだろ。ほら逃げ回ってても勝てねーぞ」
「わかってる、よ!」

思わず言葉を漏らせばすぐに答えが返ってくる。その声音は誰が聞いても本当に楽しそう。挑発されたから、ってわけでもないけど。
拳銃から何発かの弾を弾き飛ばす。右手の拳銃はアステロイド。まっすぐ公平に向かっていく。左手の拳銃はバイパー。クルクルと回りながら半分は私に向かってくるトリオンを撃ち落とし、半分は公平に向かって複雑な軌道を描いた。

「甘いっての」
「っ!!」

ああ、ほとんど打ち落とされた。
とはいえもちろんそれは想定済み。
花火の中を飛び回りながら、私は右手の拳銃をこっそりと消すと、新しい銃を作り上げる。
見た目は普通のアステロイドの拳銃。でも実はこれは合成弾を撃つために少しだけ装甲の硬い普通の倍のトリオンを必要とする特別なやつ。

私のバイパーを撃ち落としたりシールドで防ぐ公平の背中を目掛けて、一瞬、ほんの、本当に一瞬の隙を着いてグラスホッパーを踏み抜いた。
一気に詰まる距離。

そして。
私の特別製が、公平に向かって正確に何発も、同じところを重ねるように何発も、火をふいた。
狙うはただ一点。

「チッ」

公平のバイパーが、そしてシールドが。
私の数発の弾丸を止めようと、する。
けど。

「ギムレットか!」
「片手シールドじゃ、止められないよ」

シールドを砕いたのは私の三発目のギムレット。
四発目のギムレットは、何にも阻まれることなく公平の左胸を撃ち抜いた。

[ 戦闘体活動限界 ]

システムの機械的な声を聞いて、公平は悔しそうにでも楽しそうに笑って、その場に腰を下ろした。
ゆっくりと公平に近づくと、私は公平をゆっくりと自分の倒れ込む勢いのまま地面へと押し倒す。
うわ、とかおい、とか声がしたけど聞こえないふりをした。
楽しくて楽しくてしょうがない。
当然のように私の体を受け止めてくれる公平の腕の中から公平の顔を見上げると、ちょうど公平の視線もこちらに向かっていて。何か口を開こうとする公平の顔の前に手を伸ばす。

「ね、公平。誕生日、おめでとう」
「あー。ありがとーございます?」
「私の気持ちうけとってくれてありがと」

一瞬だけキョトンとした公平は、数秒後くつくつと笑い始めた。

「あーなるほどな、そういうことな」
「うん」
「だからしつこくここばっか狙ってたのか」
「うん!」

ここ、と言いながら公平がトントンと自分の左胸をたたく。
私は勝手ににんまりしてしまうのを止められなかった。

「わたしの公平を好きで好きでしょうがなくて死にそうな気持ちを、表現してみた」

ぎゅうと私の体に回されている腕の力が強くなる。
トリオン体でよかったと思うくらいには力はすごい強い。

「だいすきだよ、公平」
「俺も。愛してる。さあら」

ふふふと緩む顔は誰かに見せられるものじゃないから。
ぐりぐりと公平の胸に顔を埋めればくすぐったいと頭の上で優しい声がした。
すごくすごく幸せだった。



今日は、公平の誕生日なので。
彼を撃ち落とそうとそう決めた日。なのでした。






恋人を撃ち落としたい日


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