「おい、さあら!さぼってんじゃねーぞ」
「ええー、無茶振りなんだけど」

黒トリガーを奪うため、立ち塞がった迅さんとの戦いの中。
慶さんと、風間さんの方へ配置されたわたしさあらは、とにかく貧乏くじひいたとしか言えなかった。

「そもそも弾まともに当たんないし、迅さんと相性悪いのー」

慶さんも風間さんもほぼ瀕死の状態。既に歌川くんはベイルアウト済。
唯一無傷なのが私だ。

「俺らベイルアウトするけど、お前無傷で帰ってきたら、許さねーぞ」
「ええええ、もう終わった感じなのにさあらだけ戦えっていうの!?」
「それくらい根性見せてこい」

そう言い残すと、慶さんは楽しそうに笑顔を浮かべながらベイルアウトした。
あの顔は、本気でこのままノコノコ帰ったら、文字通り八つ裂きにされるやつだ。

「ええええ……」
「んー。しょうがない。やろっか、さあら」
「すごいやだ」

やろっか、と言った時には迅さんの風刃はきっちりリロードされていた。

『さあら』
「なぁに、慶さん」
『一発も入れれないで戻ってきたら、明日お前のポイント1万くらい減らす』
「鬼!!慶さんの鬼!!」
『がんばれ』

心の篭ってない応援の声とともにぶつりと、非情な電子音がして、通信は切れて。
少し離れたところで立っている迅さんが楽しそうに笑っていた。

「さあら」
「なんですか!」
「明日のお前の運命知りたいか?」
「遠慮します!」

くすくすと楽しそうな笑顔、ぶち壊してやるんだから!!
そう心に決めて、地面を強く蹴った。




「おかえりー」
「……ただいま」

ぶすっと頬を膨らませて、帰ってきたさあらに、声をかけたのはまずは国近だった。
それに答えたさあらは、そりゃーもう私は不機嫌です!と針ネズミ状態で。

「悪くなかったけどな」
「でも全部読まれてたっすね」
「最後のあれ、惜しかったんだけどねぇ」
「下半身潰されたのに、最後の一発メテオラ決めたのはかなり良かった」
「相手が迅さんじゃなきゃ、相打ちいけたんじゃね」
「結局無傷で迅さんの勝利かぁ」

好き勝手に戦闘を評論されて、さあらの機嫌は更に悪化していく。
それが逆に面白くて、俺も出水も国近も、次々にあーでもないこーでもないと続ける。

で、結局数分で、限界を超えたさあらは、うがああああと突然吠えた。

「しょうがないじゃない!あの人のサイドエフェクト!大体私の上位互換なの!!!私がちょっと右に避けたほうがいいかなってSE働かせたって、結局左に動いたのより数%マシくらいにしかならないし、その右に動いたのを先読みされてるから、結局更に次の仕掛けが飛んでくるし、そもそも私の弾を何発弾いたって、結局迅さんのSEで全部紙一重で避けられるし!物量で押し切ろうとしたら風刃が飛んでくるし、スピードで勝負しようとしても先読みされるし!そもそも慶さんと風間さんとスナイパーで、ほっぺた切れたくらいしかダメージ受けてない人に!私が!一人で!かてるかぁああああああああ!!!」

あ、キレた。これなんかに似てんな。あ、わかった怒ってるときの猫。
全身の毛を逆立てて、全身で私は怒ってます!って感じな。
しばらくそのまま、きいきい怒って。
怒り疲れたらしく、ぺたんと座り込んださあらは、ぽろぽろと今度は泣き始めてしまった。
そうなったら、ここは出水の出番。さあらの小さな体を自分の腕の中に閉じ込めて、胸の中に頭を抱き込んで。出水は、他の誰にも聞かせないようなあまったりぃ声で、さあらをあやす。

「あーごめんって、さあら」
「こうへいのばか」
「はいはい、わるかった」
「こうへいきらい」
「それはダメだろ」
「きらいじゃない」
「よろしい」

10分もしたら、さあらは泣き止んで。二人揃って立ち上がるのを、俺も国近もぼーっとそれを見ていた。
したら、顔を上げたさあらは突然俺の腹めがけて突進してきた。

「ぐっ、っちょ、さあら?殺す気か?」
「けいさんのばか」
「はいはい、ごめんごめん、調子乗った」
「けいさんなんかもう嫌い」
「そういうなよ」
「やだ」
「明日ジュースおごってやるから」
「やだ、さあらそんなに安くない」
「わかった、飯おごってやる」
「やきにく」
「わかった」

結局俺も、甘いよなぁ。あ、そういやこれポイントのこと忘れてんだろこいつ。……まぁいいか。
遠征直後に、迅にまけて。荒れてた心は、結局さあらたちのおかげで、静かになった。

荒れてたせいで、ちょっと苛めすぎたお姫様が、機嫌を直してくれるなら。
焼肉くらいどうってことねーな。

出水も、国近も、俺とさあらを見ながら、苦笑してるから、きっと分かってるんだろーなー。色々と。
俺は良い部下を持ったなと、しみじみ感じた。

くろとりがーいかがですか


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