「本日より、特務執行部へ所属することになりましたやまだです。よろしくおねがいします」

緊張と共に、頭を下げて、数行待って顔を上げる。
居並ぶ面子を確認すると、やまだの喉がヒュウと空気が駆け抜けた。

どの顔も、ボーダーの表舞台で長く知られている有名な人たちばかりで。
なぜ自分が、と思わずにはいられないほどだ。

「執行部現統括、風間だ」

小柄ながら、その名前はもちろん知っている。
戦闘員としても相当長く最前線にいる人で、現在は本部長付の室長だったはずだ。

「三輪だ」
「出水」
「米屋な」
「太刀川ね」
「他にも何人かいるが、任務で外部にでている。後日また紹介する」

次々に手短すぎる自己紹介に、やまだは何度も頭を下げた。

「表では確か、加古隊だったか」
「はい。所属は半年ほどです」
「優秀だと聞いている、よろしくたのむ。しばらくは三輪につけ」
「はい!」

はぁ、と大きなため息が部屋に満ちる。出処は風間から名前を呼ばれた三輪からだった。
やまだが横目でちらりと彼の顔を盗み見れば、眉間にははっきりと皺が寄っていた。

「三輪ぁ。そんなあからさまに嫌そうな顔すんなよ」
「黙れ、出水。俺は面倒な調査任務がある、その上指導など」
「しょうがねーだろ。俺も太刀川さんもそれぞれ追ってる仕事があるし……米屋は?」
「俺明日から関西の方へちょっとなー新人連れてく余裕はねーよ、ごめんな」
「分かっている。……やまだ、表の任務はしばらく免除だ。俺と共に行動してもらう」

やまだは、冷たい声音に、了解と小さく返しこくりと頷く他なかった。



「やまだ」
「はい」

ランク戦室でモニターを見ていたやまだを、背後から小さく呼ぶ声がする。
振り向けば数メートル先に、三輪の姿があった。
それ以上の会話はないが、どうやらついてこいということらしい。
小さく答えたあとは、無言で三輪の背中を追った。

「今調べている案件は、とある職員が一級機密を外部に漏らしたとされている件の裏付けだ」
「はい」
「黒だとわかった時点で、職員の処分も俺たちの仕事になる」
「処分……」
「そうだ。意味が分からないとは言わせない」
「わかっています……」

冷たい三輪の視線が、容赦なくやまだに注がれる。
もし、ここで分からないやそんなことはいけないことだ。なんて言おうものなら、処分される次の人間は、自分になるのだろう。
特務執行部とはそういうところだ。
覚悟をしろ、そして任務を遂行しろ。お前はそのための駒だ。覚悟を決める時間など与えられない。

「執行部に所属する際に、全て聞いています。覚悟はしています」
「なら、良い。手を動かせ」

やまだの目の前のモニターに映るのは、機密を漏らしたという職員のここ数日の行動を携帯やトリガーなどから分析した詳細なデータだ。
分刻みでその所在地や、様々な動きが数値にして並んでいる。

「随分と、外部の人間との接触があるようです……」
「接触した人間を洗い出せ」
「はい」
「漏れた機密の行方と処分も必要だ。そして、接触した相手も全て、始末する」
「……はい」

今回漏らされた機密は、トリオンに関する重大なデータだ。
もし万が一このデータが外部で公表されるようなことがあれば……今後の組織に相当なダメージとなる。
その前に、全てを抹消することが、今回の三輪に与えられた任務だった。


「黒だな」
「はい……」
「昨日からこの男は、突然の休暇を取っているようだ……追うぞ」

分析した結果は、真っ黒。言い逃れの余地もない、そして本人は、逃げようとしているのだろう。所属部署へ今朝、突然の休暇を申請していることも発覚した。

国外への逃亡も厄介だが、万が一近界へ逃亡されてしまうと、相当に捕獲が困難になる。
三輪は、やまだをつれ、本部を飛び出した。

02


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