「二人とも速攻姿消してんなぁ」
「トラップを増やされる前に、冬島さん潰してーとこっすね」
「まぁ当真を先にやればあとは殲滅戦だけどな。さあら、どっちだ」
今日のランク戦は、いつもと少し違う。
A級の1位と2位による所謂頂上決戦みたいなものだった。
今期最後のランク戦になる今日は、負けるわけにはいかない。
太刀川隊の5人も、いつもより遥かに緊張感を持ってランク戦に挑んでいた。
冬島隊は、既に着々と準備を進めているはずだ。
時間を与えれば、相手に有利になる。
トラッパーとの戦いとはそういうものだ。
太刀川隊の戦闘員4人はそれぞれ中央に向かって合流を急いでいた。
バラけていては一人ずつ潰されるだけなのはもちろん。
姿を完全に消している相手を見つけるのに、さあらのサイドエフェクトを利用するためだ。
「南だと思う」
「よし行くぞ」
「唯我、テメーも早く来いよ」
「は、はいいい!」
南方面に向かって、太刀川と、さあらのグラスホッパーが空に散る。
3人はそのまま空に飛び上がった。
「公平っ」
しばらく進んだところで、さあらの声が響く。
その次の瞬間、出水の周りに分厚いシールドが張られ、キィンと金属音が響いた。
攻撃はアイビスだったが、出水とさあらの二人分のフルガードはその攻撃を無傷で弾いた。
「さんきゅ、さあら」
「おっけおっけ」
「つーことで……当真さんみーっけ」
シールドを張っていた分、出遅れた出水とさあらとは違い、太刀川は既に当真の位置を追っていた。
「おい、出水、さあら」
「なんすか」
「一番遅かったやつ、今日の飯おごりな」
「えーずるくない?慶さん」
「ずるくない。早く来い」
そう答えが返ってきた時にはすでに、前方で太刀川の旋空弧月がビルを切る光が遠くに見える。
はぁ、と二人してため息を吐き出すと、さあらが出した二人分のグラスホッパーを同時に踏み抜いた。
「当真、相手が悪かったな」
「チッ。さあらのサイドエフェクトうちに相性悪すぎんだよ」
出水とさあらがトラップを警戒しながら、太刀川に追いつくと。既に戦いは終わりかかっていた。
倒れた当真を踏みつけた太刀川は、何言か言葉を交わし、そして自らの太刀を笑みを浮かべて振り下ろした。
ー 活動限界 当真 ベイルアウト ―
「さあらのが少し遅かったか?」
「えー、公平でしょ?」
「いや、俺のが早かった。ね、柚宇さん」
『残念ながら、さあらの負けー』
「だよな、さあらのおごりな」
えーと不満顔のさあらに、太刀川と出水は心底楽しげに口元にニヤリと笑みを浮かべた。
そんなじゃれ合いは、時間にしてほんの数秒。
「あっちかな。多分」
「よし。とっとと終わらせるぞ」
「出水りょーかい」
「やまだりょーっかい」
動き出せば一瞬。
多分この辺りだと思うよー。とさあらが示した場所に着くと、どこに隠れているか分からないなら、隠れられそうな場所を全て更地にしてしまえばいいと、思いっきり力技だが、有り余っているトリオンに物を言わせて出水のトマホークが次々にバラ撒かれていく。
テレポーターでの移動距離を考慮に入れた上で、いつもより遥かに広範囲を更地に変えていけば……
「見つけた」
はじめに呟いたのは、太刀川だった。
つぶやきと同時に、太刀川が動いた。地面を強く蹴り、その勢いのままグラスホッパーを踏み抜き、テレポーターを起動しかけていた冬島の体に、一閃。
― 活動限界 冬島 ベイルアウト ―
終わってしまえばあっけない。
予定より遥かに短時間で、太刀川隊の勝利がアナウンスされた。
「……そういや唯我に一度も会わねーまま終わった」
「あー……存在忘れてたぁ」
「ひ、ひどいです!!」
「早く来いつっただろ、こねーやつが悪い」
「そういうことだな」
「おつかれー全員生還やったね!」
「ただいまぁ、柚宇ちゃん!」
「おつかれー、柚宇さん」
「おつかれさん、国近」
「不滅の男唯我ただいまもどりましたよ!」
それぞれの声に、国近はほんとに嬉しそうに笑う。
来期も1位。当たり前の結果だと思っているけどやはり嬉しいものは嬉しい。
5人は、それぞれ顔を見渡して楽しげに、心から笑いあった。
まけられないたたかい
前 /
表紙 /
次