「あれ、さあら。今日ごはんたべねーの?」

三門市立第一高校の屋上は、昼時になると続々とボーダー所属の人間が集まってくる。

そしてその中には勿論出水やさあらの姿も含まれていた。
出水が2年の男子の輪の中で食事をしているすぐ近くで、さあらは1年から3年のボーダー女子が作る輪の中に。
さあらは軽くお茶のペットボトルを傾けているだけ。その手には食事らしきものが見当たらない。

「うん、今日食欲なくて」
「大丈夫かよ」
「気分的なものだから大丈夫!」

さあらの言葉の意味に、食事を取らない理由を知る数人だけが、ひっそりと眉をひそめる。

「さあら」

背後からかかる声に、さあらが振り向くと出水がじぃとさあらを見ていて、その瞳の色にさあらは思わず泣きそうになってしまい、首を横に振ってごまかした。
けれど、それに騙されてくれるほど、2人の付き合いは短くない。

「こっち来い」

そう言うと立ち上がる出水に、さあらも渋々とそれに従って、皆の輪から少し離れたところで2人向かい合って腰を下ろした。
伸ばされた手が、さあらの手を掴み、指がからみつく。さあらより少し温度の手から伝わる感情は、さあらへの心配のそれで。
崩壊寸前の涙腺は、もう耐えきれそうもなくて。
他の誰かに見られないように、出水の胸の中に顔を埋めた。

乗り切らなければ、ならない。
でも、待ち受ける今からの時間が、怖い。怖くて、しょうがない。
遠征のたびに、毎回繰り返されるそれに。
いつも、いつも、押しつぶされそうになる。
でも乗り越えるしかないし、逃げられない。
逃げれば待っているのは、自分の一番大事な居場所を失う未来だから。

「出水、さあら。そろそろ時間だぜ」

そう二人に声をかけたのは、当真だった。その隣には、国近も立っていて。その国近も、さあらに負けず劣らず泣きそうだった。
今から、出水を、さあらを、そして当真や国近を待ち受けるのは、遠征直前。訓練の最後になる、一番過酷な……訓練だった。

「大丈夫か?」
「うん……ごめんね、情けないとこ見せちゃって」

無理やりにでも、笑うしかない。顔を上げたさあらの瞳は赤かったけれど、既に涙はなく。
先にいく当真と国近のあとを、ゆっくりと出水と繋いだ手を離さぬまま。さあらは追いかけた。

おくじょうにて


/ 表紙 /




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