「……柚宇ちゃん、もしかして体調わるい?」

ランク戦まであと1時間、さぁそろそろ準備するかというタイミング。
バレた……って思った。
さっさとトリオン体になっておけばよかったーなんて思っても時既に遅し。
さあらってこういう時よく気がつくんだよねぇ。

「まじ?大丈夫か?国近」
「あー確かになんか顔赤いっすね」
「熱ある?」
「大丈夫ですか?国近先輩」

体温計どこだっけと戸棚に向かうさあら、額を触ろうとする慶さん。いみずんはじぃっと顔を見てくるから居心地がよくないし、唯我くんは動揺してオロオロしている。
元々朝からちょっと寒気がするとは思ったけど、本部についたら、熱が出てきたみたいだった。
でも今日は大事なランク戦だし……トリオン体になってしまえばいけるかなぁーって思ったんだけどねー。

「体温計あったよ」
「おら、国近測れ」
「やだー」
「何いってんの、柚宇さん」
「だって今日ランク戦だよ。しかもB級昇格にあの二宮隊が挑んできてるんだよー」
「ダメだ、さあら」

顎をくいっとしゃくった慶さんに合わせて、さあらがよしきたと向かってくる。

「ちょっと、さあら!どこさわって、やーだー」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ!じっとしてて柚宇ちゃん!!」

片や運動不足のインドアゲーマー。片や日常的に前線で戦うA級隊員。
さあらに私が勝てるはずない。
すぐにピピピとよくある電子音が響いた。

「38度って、柚宇ちゃん!」
「バレたかー」
「国近、お前今日休みな」
「やだ!!」
「だめですって。今日は休んどいてください」
「絶対やだから!!」
「柚宇ちゃん無理しちゃだめだって」
「うううー」
「医者よびますか?」
「やだ!!唯我くんのばかっ!!」

わかりやすくショックを受けた唯我くんを他の三人が綺麗に無視して、慶さんが腕を伸ばしてきた。
ガシッと、あっという間に抱えられ大股で歩く慶さんは、生身なのに全然平気そうで。
仮眠室のベッドにそっとおろされると、待ち構えていたさあらにトリガーをとりあげられ制服の上着をすごい早業で脱がされる。そのままの勢いでベッドに寝かされ、トドメにいずみんにしっかりと布団をかけられる。

「ランク戦終わったらちゃんと病院つれてくから、それまで寝とけ」
「……やだ……オペレーターどうするの」
「は?」
「私以外の人に太刀川隊のオペレートさせるなんて、やだから」
「そんなの俺らも同じっすよ。ねぇ太刀川さん」
「当たり前だろーが」
「だよねぇ」
「え、じゃぁどうするの」

慶さん、いずみん、さあらの三人が視線を交えると、三人揃って当たり前のように頷いた。

『きょうは、オペレーターなしでやる』

三人がけろりと声を揃えてそう言えば、唯我くんだけがぶっと息を吐き出してすごく嫌そうな顔になったけど。三人は平気な顔だ。

「余裕だろ」
「っすね、相手が隠れてんなら全部更地にすりゃいいだけだし」
「公平が全部潰して、慶さんが全部切って、私が全部撃ち落せばいいんでしょ」
「分かりやすくていいな」
「えっと、僕は?」
「よし、唯我今日はお前おとりな。簡単にやられんじゃねーぞ」
「えええええええええええっ」

うるせぇ、といずみんな鉄拳が唯我くんを襲うのを見ながら、涙が出そうなのは熱のせいだ。きっとそう。

「ゆっくり寝とけ、ちゃんと勝利持って帰ってくるから」
「そうそう、安心して寝といてください」
「柚宇ちゃんいない分大変だけど、がんばるからちゃんと寝て!」
「が、が、がんばります」

わかったよ、次までには治すから、がんばってね
そう言いたいのに口を開いたら涙が落ちそうだから、布団にごそごそと潜り込んだ。

「じゃぁ柚宇さん、いってきます」
「いってくるわ」
「いってくるねぇ」
「い、いってきます先輩!」

頼もしい四つの背中を布団の隙間から見送って、わたしはそのまま夢の中。
きっとちゃんと、四人は笑顔で帰ってくるから、だいじょうぶ。

いってらっしゃい。みんな。

くにちかのかぜのなおしかた


/ 表紙 /




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -